七の節 思い、分かたれる事なく。
薄い空色が、四角に切り取られている。第二迎賓館の中庭が、正方形に設計されているからだ。
外枠は、三階建ての灰色の石壁。藍色が特徴の瓦屋根が
雲がない快晴。運搬用飛竜の一団が、山型の陰影を走らせる。その、
一階部分の回廊には、壁に沿い
「ハド。本当に行くのか」
「もう、手続きは済んだ頃だと思うよ」
「そう言う事じゃないって。おじさん、知ってるのか?」
ハドと呼ばれた少年は、もう片方の少年の視界の端で否定する仕草をして見せた。
「分かっているよ。黙って決めるのは駄目だって。でも、世の中は、
セリスと呼ばれた少年は、耐えられず首をハドに向け、
「分かってねぇよ! シザーレの門をくぐったら最後なんだぞ!
「あはは。商人や使節団なんかも行き来してるよ」
「だから、そう言う意味じゃないんだって」
昔から変わらない、二人のやり取り。年下のセリスが強硬に迫る程、年上のハドの的には命中しない。
このズレは、もどかしく不満が募るが結果的に、この温度差が絶妙な均衡へ導く。それは、今も同じだった。
セリスの不満が安堵に変わる頃、ハドが口を開く。
「そうだよね。眞導士に志願して門を通り抜けると、死体になっても出られない」
「何だ。向こう見ずって訳でもないのか」
「大丈夫。僕は眞導士として門から外に出て、セリスに会いに行く」
「分かった。もう止めない。だから死ぬなよ。俺に会う日が来るまで、絶対に死ぬな!」
「そんなに、死ぬ死ぬ言わないでよ。怖くなるじゃないか」
言いつつ、おどけた顔を作ったハドは、その場で立ち上がる。セリスも、ほぼ同時に立ち上がり向かい合う形に無言で位置取った。
二人は、前あわせで交差する、白い礼服の胸元で合掌し、聖シャンナの教えに向かう神妙な顔に変える。
「約束しろ。グランツ・ハーシェガルド。聖法典、聖シャンナの御名と、俺の名に誓え」
「誓うよ。シェス・シェリムング・セリンディアス」
本当は、聖法典や聖シャンナの教えは関係なかった。二人にとって、互いの名前と、分かち合った時間の尊さこそが、何よりも重要だった。
時折、行き交う同窓の徒や、帝国の役人達が通り過ぎる。生活音さえも、入り込めないはずの雰囲気の中。どこの世界にも、不粋な輩は棲息する。
「あ~あ、いたいた。真面目に、シザーレなんかに異動を申し出た、ハーシェガルドちゃ~ん」
迎賓館側からやって来た一団が、言葉に〝不粋〟の荷札を付け、存在感を撒き散らす。
セリス越しに視界に入れたハドと、向き直るセリスは、合掌のまま頭を深く垂れる。この場面において、仕草と胸中は一致していないのは一般論にも浸透して久しい。
セリスに至っては、顔が伏せられている事を利用し、しかめっ
「そんな、堅い挨拶なんて抜きだ。そんな事よりさ~、この世の死地へ行く前に、良い思いをさせてやるよ」
二人の事実上の先輩であり、階級も上に立つ、フィーツ・ワイテ帝国の皇族に連なる貴族だった。
帝国の貴族の子女の中には、一般教養と聖シャンナの教えを受けるため、
「前から目を付けてたのに、残念この上ない。何なら、そっちの白髪も混ざるか? 故郷を追われて、離散した民族の特徴、しっかり味わってやるよ」
だが、彼らは帝国の権威を背景に、清貧を
想像できる風景から逃避したい二人は、礼節を盾にする。
焦らされる貴族達が、私欲を満たす言動に移そうとした、次の瞬間。鏡面仕上げの大理石が敷き詰められる通路に、聞き苦しい鈍い音が転がった。
悪態や、非難を喚く声。装飾品の重なる音。さすがに、少年達は姿勢を解く。
「
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