わたあめ星人参上!!

ななくさ ゆう

わたあめ星人参上!!

 それは小学5年の巧己たくみと小学3年生の健太という兄弟が、公園でキャッチボールをしていた時のことであった。


「わははははっ。わたあめ星人参上!!」


 突然公園の入り口に現れた男がそう高らかに宣言した。

 兄弟は口をあんぐり開けた。

 男が異様な格好をしていたからだ。

 頭全体に綿わたをかぶり上半身は裸。下半身もほとんど裸で、男性の大切な部分のみかろうじて、これまた綿で隠している。

 男――わたあめ星人は続けた。


「この宇宙は危機に瀕している。君たち兄弟はそれを救うために選ばれた戦士、まさに勝利の鍵なのだ。一緒に宇宙に行って……

 ……って、兄の方、人が説明している時になに携帯電話をかけようとしている!?」

「あ、もしもし、警察ですか、今○×町の△□公園で怪しい男が小学生に声をかける事案が発生していて、ええそうです。その小学生というのが僕なんですけど……」

「いきなり、通報するなぁぁぁぁぁ」


 わたあめ星人は叫んで巧己の携帯電話をはたき落とした。


「ああ、何するんだよ、壊したら弁償だからな!!」

「うるさい。こういう時はもう少し子供らしい反応があるだろう!?

 そもそもなんで小学生が携帯なんて持っているんだ。最近の親の教育はどうなっているんだ!?」

「なんでって、そりゃあ、おじさんみたいな変態が現れたときの自衛の為とか」

「誰が変態だ!? 子供なら子供らしい反応をしろ。『うわぁ宇宙人だぁ』とか『え、僕たちが選ばれし戦士』とか色々あるだろうが!!」

「ええぇ、そんな馬鹿みたいな反応するわけないじゃん」

「だからといっていきなり通報するやつがあるか」


 言い争う巧己とわたあめ星人。

 と、そこに健太が口を挟む。


「そうだよ、お兄ちゃん、通報は駄目だよ」

「おお、弟の方は素直なよい子なんだな」

「だって、この人も現代社会の荒波に飲まれた不幸な人なんだからさ」

「こらぁぁぁ、小学校低学年が、大人に対して上から目線で同情的な視線をむけるんじゃない!!」

「そういわれても……」

「ねぇ」


 2人でお手上げとばかりに手をふる。


「ええい、ならば仕方がない。私が宇宙人だという証拠を見せよう!!」

『証拠ぉ?』


 疑わしげな視線を向ける兄弟。


「ふん、そんな顔をしていられるのも今のうちだぞ」


 わたあめ星人はそう言うと頭の綿の中から小さな玉を取り出し、地面に投げつけた。

 たちまちモクモクと上がる煙。

 煙が収まったとき、わたあめ星人の後ろには電車が1両あった。


「どうだ、これこそ私がこの星まで旅してきた電車、通称銀河鉄道号だ!!

 これで少しは信じる気に……

……って、おまえらなぜお互いの頬をつねっている!?」

「いや、夢かどうかを確かめただけ」


 言う巧己。


「これは夢ではない。わたしは本当にわたあめ星か来たわたあめ星人で……」

「はいはい、わかったから、手品師のおじさん」

「変態から手品師に地味に地位が上がってもうれしくないわぁぁぁ。

 っていうか、無理だろ、今の。地球の手品じゃ無理だろ!?」


 必死に言いつのるわたあめ星人。


「そんなこと言ったってなぁ、銀河鉄道って」

「ねぇ」


 互いに顔を見合わせ、馬鹿にしたように笑う巧己と健太。


「そんな松本零士じゃないんだから」

「あ、お兄ちゃん、そこは宮沢賢治って言った方が文学少年ぽくてかっこいいと思う」

「どっちでもないわぁぁぁ、それらはフィクション、これは現実。全く、最近の子供は現実と非現実の区別もつかないのか!?」

「その言葉、そっくりそのまま返したいんですけど」

「とにかく、宇宙の危機なの、君たち選ばれし戦士が戦わないと宇宙が滅びるの!!」


 巧己の言葉に地団駄を踏むわたあめ星人。


「そんな、団地にすむ、普通の貧乏小学生兄弟になにをいっているんだか。

 大体、宇宙が滅びるっていつの話だよ」

「このままだと、今から5億年後にはこの宇宙が滅びるんだ」


 一瞬の沈黙。


「5億年後って……知らねー」

「お兄ちゃん、僕としてはどちらかというと60年後に本当に年金がもらえるかどうかの方が心配だなぁ」

「だよねぇ」


 うなずき合う兄弟。


「くぅぅぅ、なんと言うことだ。地球の子供はここまで薄情になったのか」


 大げさに嘆くわたあめ星人。


「まあ、とにかくさ、おじさんも色々ストレスあるんだろうけど、人生まじめに生きた方が……」


 巧己が言いかけた、その時。

 ピーポーピーポー。

 そして、パトカーが公園の入り口に止まり、さらに計考えてくる。


「お前か、怪しい男というのは」

「い、いや、私はわたあめ星人……」


 抗弁するわたあめ星人を取り押さえる警官。

 そして別の警官が兄弟に言う。


「君たちが通報したんだね。大丈夫? 怪我はなかった? 暴力とかふるわれなかった?」

「うん。大丈夫です」

「そうか、良かった。よし、お前はちょっと署まで来い」


 そう言ってわたあめ星人をパトカーに乗せる警官。


「ちょ、ちょっと待て、私はわたあめ星人……」

「わかったわかった、いいわけは署で聞こう」


 そして、警官とわたあめ星人が去った後には、電車と兄弟2人が残された。


「じゃ、帰ろうか」

「だね、お兄ちゃん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

わたあめ星人参上!! ななくさ ゆう @nanakusa-yuuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ