第10話 オリエンテーション

 ミサキとの決闘から一夜明け、教室中はシンジの話で持ちきりだった。


(はぁ、こうなるのは何となくわかってたけど)

「凄いジロジロ見られてるな!」

(ギシンの所為だよ?)

「良いじゃねぇか!目立つの嫌いじゃないし!」

(スパイが目立ってどうするんだよ!......ってそれもだけどミサキちゃんの方も心配だよね、あんなこと言ったすぐ後の出来事だもん、みんなから何を言われるか分からないし──)


 シンジとギシンが会話をしていると隣の席に座っていたアイが声をかけて来た。


「シンジ!ミサキちゃんがねやっぱりシンジはシンジだってさ」

「え?でもあの時は能力が違うって」

「昨日ミサキちゃんがね『能力自体は違うけど、でも月光拳をあの距離で避けれるのはシンジかタクマくらいだ』ってね」


(それって理由になってるの?)


「そう言えばシンジ、その能力の件なんだけど、どこで手に入れたの?」

(やっぱりそこ来るよね、本当のことは言えないし誤魔化さないと!)

「えっとね!ボクが目を覚ましたときから使えていたよ?」

「なるほど......」


 その言葉を聞きアイは考え込むように顔を下に向けた。


(アイちゃん何考えてるんだろ?)

「分かったよ!シンジ!」


 アイは突然顔を上げるとシンジの方を向き指をさした。


「わ、分かったって何が!?」

「シンジはきっと記憶を失った時何かの拍子でその能力を手に入れて、元からあった暴走の能力と混ざり合ったんじゃないかな?」


(え......)


 シンジはその言葉を聞くと頭の中が真っ白になった。アイの言う暴走の能力、それはギシンだけが発動できる能力だからだ。


「シンジ?」


(元からあったのはボクの分身の能力じゃなくて、暴走の方?)


 アイの言葉はシンジに届いてはいない、それ程にまでシンジは動揺していた。


「シーンージ!」


 アイはシンジの耳元で叫ぶと周りの生徒とシンジは一斉に驚いた。


「うわっ!?」

「どうしたの?」

「いや、それはこっちのセリフだけど!?」

「ごめんごめん、でもボーッとしていたシンジも悪いと思うよ?」


 アイはハッとした表情をするとそう言った。


「ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃって!」

「そっか〜、でも暴走が発動してた時は昔のシンジみたいだったんだよね」


(やっぱりそうだ、ならボクは一体......)

「そうなんだ、ありがとうアイちゃん」


 シンジがそう言うと教室のドアが開き見た目10歳くらいの少女が入ってきた。


「よし、みんな居るな!これよりガーディアン1-Cホームルームを始める!」


(ねぇ、ボクの聞き間違いかな?この子ホームルームを始めるって聞こえたんだけど......まさか)

「いやいや!流石にこんな小さなガキが教師な訳」


「おっと、自己紹介がまだだったな!私の名前はレイ・アストバーグ!このクラスの担任を任された者だ!これから1年間はよろしく頼むぞ!」


 明らかに10歳くらいの少女にしか見えない彼女が担任と名乗った途端に教室中が騒ついた。


(みんな同じリアクションしてるよ)

「あれは流石に疑うだろ!」


「静粛に!お前たちの言いたいことは分かる、私も教師世界この世界に入ってから2年ほど居るからな、確かに私は小さい!でも歳は23だ!体はこんなだがお前らより普通に年上だから覚えておけよ!」


(23!?23って年齢の話!?)

「それ以外に何があんだよ!」


「とにかく!私がお前らの担任を任された!気軽にレイ先生とでも呼んでくれ!」


 彼女は腕をバタつかせ、ニコッと笑うがその仕草や表情が余計に幼く見える。


「さてと今日はオリエンテーションなわけだが内容はお前らの実力を見せてもらう事にした!」


 そう言うと一人の生徒は手を挙げた。


「先生!実力を見せるって、このクラス自体が入試の結果で振り分けられてるんじゃないんですか?」

「良い質問だな!確かにこのクラスは現在のランキングで振り分けられている──まぁ一人例外は居るけど」


 そう言いレイはシンジの方をチラッと見た。


「まぁ、結論を言うと私達は結果しか知らないわけ」


 周りの生徒たちは理解に苦しむように困った表情をするがギシンは何かを察したように『なるほどな!』と答えた。


(何が『なるほど』なの?)

「ガーディアンのクラスはあくまでランキングという結果のみを見てるが過程を俺たちは知らないだろ?要は周りを知るために実力テストみたいなもんをするんだろうよ!」



「さてと!ホームルームはここまでだ!これから実技演習室に来てもらう、それでは解散!」


 シンジ以外の生徒は何故実技演習室なのかと不安げな顔で実技演習室へ向かった。


「さてと!みんな揃ったな!」


 昨日の実技演習室とは違いそれの3〜4倍はあるような大きいフィールドにクラスメイトが一列で整列させられるとアナウンスが流れた。


「今からお前らには障害物競走をやってもらう!」


(障害物競走?)

「その名の通り障害物を避けながらレースをする種目のことだな!」

(へぇ、そんなのもデータの中にあったんだ)

「どうしたんだよ急に......まぁそうだな!あいつら俺を完全な人間兵器にするために一般常識的データも入れてたらしいしな!」

(本当にそう......なのかな?)

「何か言ったか?」

(いや、何でもない)


「それではスイッチオン!」


 開始音が鳴り響くと昨日のように柱が床から現れるが昨日の樹木より遥かに高く、高層ビルの映像が投影される、ビルの形は様々で渡り廊下がチラホラと設置している。


「これってまさか!」

「街?」

「その通り!ルールは簡単!制限時間15分以内にゴールへたどり着くこと、もちろんみんなの技量を知るためだから能力は使っていいがハートリガーの使用は禁止だ!以上!」

「1つ質問いいですか?」


 そう言いながらメガネをかけた白人の少女が手を挙げた。


「許可しよう!君はえーっと」

「私の名前はマリス・メシュア、マリーとお呼びください、もし制限時間を過ぎた場合どうなるのでしょう?」


 マリーはそう言い小さくお辞儀をした。


「いい質問だよマリー、もし制限時間以内にクリア出来なかった場合はこの建物たちと一緒に格納庫に落ちてもらう、それでは行くぞ!よーいスタート!」


 レイはそう言うと開始音が鳴り響き周りの生徒たちは各自の能力を使いながらスタートした。


「みんな早いね!」

「うん、ボクはこういうのには強くない能力だから走るしかないけどアイちゃんは使わなくていいの?」

「私の能力はマーキング、20分以内に触った物じゃないと使えないのが欠点なんだよね、ハートリガーは使えないし」


 シンジとアイは走りながらも少し話し渡り廊下の下を走るとコンクリートの崩れる落とした。


「なっ!?」

「まさか!」


 上を見上げると渡り廊下が崩れこちらへ落ちてきていた。


「言ったでしょ?障害物競走だって!」


(やばい!この距離だと流石に間に合わない!それにアイちゃんも!)

「なら俺が行くまでだな!」


 ギシンは勝手に切り替わると暴走の能力を使いアイを抱えて地面を強く蹴ると間一髪のところで通り過ぎた。


「シンジ!」

「気にすんな早く先行け!次は助けねぇぞ!」

「......うん!」


 アイはギシンを抜き走り抜けていった。


(ギシン......)

「あぁ?礼ならいらねぇぞ!!」

(違うよ......いや、なんで勝手に切り替わったの?)

「お前さっきから変だぞ?どうしたんだ?」

(......ごめん、後で話すよ)

「はぁ、分かったよ!そろそろ切り替わんぞ!」


 ギシンはシンジと入れ替わり走り続けていると一部生徒たちが崩れたビルの前で立ち往生していた。


「はぁ......はぁ、君たちどうしたの?」

「この先がゴールなんだけどよ、この通り潰れて行けねぇんだ」

「壊して行きたいとこだが建物に損害を与えちゃいけないしな」


「これが最終障害ってことか?」

(そうかもね)

「俺の力を使えば1発で飛び越えれるんじゃないのか?」

(それをしたらみんな置き去りだよ、もっと別の手を考える)


「開いてる窓とかない?」


「シンジ、これ投影物だから開いてる窓があってもコンクリートだよ?」


 アイは窓をコンコンと突きながらそう言った。


「た、例えばだってば!」

(コレは障害物だからどこかに答えがあるはず......何だけど)


 シンジが考え下を見ると小石サイズの小さなコンクリートが落ちていた。


「アイちゃんの能力って複数人で移動することできる?」

「うん、前にやった事があるから行けるよ!でもどうしたの?」

「アイちゃん、コレにマーキングして!」

「うぇ!?うん、分かった!」


 アイは差し出されたコンクリートに触れ目を閉じる。


「これで良しっと、マーキング完了だよ!」

「ありがとう」

「後はコンクリートこいつをビルの向こうまで飛ばしてみんなでワープすればゴールだ!」

「それはいいんだけどよ?どうやって向こうまで飛ばすんだ?ビルの高さは50メートル以上あるそれにハリボテじゃねぇんだ!奥行きもそれなりにあるだろ?」

「それは......」

「それなら私がやります」


 シンジが男子生徒に迫られ困っていると先ほどのマリーと名乗った生徒が声をかけてきた。


「いけるの!?」

「簡単ですよ、能力を使えばですけど」


 そう言いマリーはシンジからコンクリートを受け取る。


「そう言えばどうやってビルの向こうまで飛ばすのを確認しますの?」

「それ決めてなかった」

「なら俺がやるよ!」


 生徒たちの中から黒人の生徒がそう言いながら出てきた。


「君は?」

「俺の名前はマイク・ピーリス、マイクとでも呼んでくれ」


 マイクはビルに手を当てるとビルが消えた。


「消えた!?」

「コレが俺の能力、と言っても視覚的に消すだけであってここに実体はあるけどね」


 マイクはビルのあった場所をコンコンと叩きながらそう言った。


「これで向こう側へ着くか確認できるね!」

「うん、それじゃマリーさん!お願い!」


 それを聞きマリーは縦に頷くとコンクリートをビルのある方向へ思い切り投げ、ゴール手前の地面へ転がった。


(突き抜けた!?)

「貫通能力って事じゃないか?」


「みんな行くよ!手を繋いで!」


 アイはそう言い手を差し出すと皆が円になるように手を繋いだ。

 そして次の瞬間眩い光が辺りを包むと背後にビルが建っている場所へ移動した。


「成功したのか?」

「うん!ほらあそこ!」


 アイが指差す方向にはゴールと書かれた柱が見えるとシンジ以外の生徒たちは一斉にゴールに向かって走り出しゴールする。


「おいシンジ、どこに行くんだ?」

(今あそこに怪我をして居る人がいたんだ!)


 シンジはゴールに向かう途中で別の方向に走り出す!


「くっこんな時に!」

「大丈夫、じゃ無いみたいだね!」

「シンジ君!?」


 足を怪我をしていた女子生徒の元へ向かいシンジは女子生徒を担ぐと全力でゴールへ走った!


「残り時間1分だ!走れ走れ!」


 そうアナウンスが流れたその時だった、背後から建物の崩れる音が聞こえ、その方向を振り向くと先程まで建っていた建物たちが一斉に崩れだしたのだ。


(ゴールまで300mはあるぞ!?あんな勢いで倒れてきたら!)

「ひとたまりもないな、交代するか?」

(仕方ない、この子の事もあるし......分かった!)


 次の瞬間シンジは何かに引っ張られるようにして前進した。


「っ!?」

「死ぬぞお前達」


 気がつくとシンジはゴールに到着し、それと同時に終了の音が鳴り響く。


「一体何が?」


 シンジは女子生徒を降ろすと辺りを確認し先ほど引っ張った生徒を探す。


「シンジー!」


 背後からアイがシンジに抱きつく。


「アイちゃん!?くっ、苦しっ!」

「あっ!ごめんごめん」


 首が占めていることに気づきアイは腕を離した。


「よーし、全員良く生還した!それじゃ今日のオリエンテーションは終了!明日からは普通に授業があるかな!時間割等は本日中にお前らの持っているPDAに送っておく、ちゃんと目を通すように!」


 演習場の放送室からそう放送が聞こえると生徒達は解散した。


「シンジ」


 ギシンは強引にシンジの視線を生徒たちの方へと向けさせる。


(なんだよ、勝手に動かして!)

「はぁ、お前がさっきから俺の何に反抗心を向けてるのか知んねぇけどよ、見てみな」


 視線の先には先ほどシンジ達を引っ張りゴールさせた生徒がいた。


「君!さっきはその、ありがとう!助かったよ」

「お前を助けたつもりはない、ただ抱えていた奴を救っただけだ......それにしてもあの程度のスピードでタクマって奴と互角以上か」


 少年はシンジを睨むとそう言い放ち離れて行った。


「んだよあいつ人がせっかく礼を言ってんのによ!ってかシンジ!テメェ何であいつに礼なんか言ったんだよ!」

(そりゃ命救ってもらったからね当然だよ人としては、それとも何?ギシンの中にある知識の中にはお礼の概念が分からないの?)

「......はぁ、もういい帰んぞ!」

(命令しないでよ)


 シンジはギシンにそう言い演習場を出ると廊下で3人の生徒がタクマに怒鳴り散らしていた。


(あれってまさかタクマ君!?)

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