ハードカバー

はぁ、なんか、特に手がかりになりそうじゃないじゃん、この曲。

本読んだ時みたいに、なんか思い出せるかなって思ったのに。

それに、クラシック曲とかもう本当にいつぶりだろう?無駄に気を張っちゃって、すごい疲れた。

でも、本の続きを読まなきゃなあ。

せっかくだし、音楽かけながら読もう。意味無いだろうけど。


やっぱりこの本は難しい、なーんて思いながら本を開こうとした時、ことん、と音をたてて机から本が落ちてしまった。

その時だった、かけっぱなしのこの曲と、本。このふたつが繋がったのは。


それは古い記憶。

曲名に引かれた線のように、今にも消えそうなくらい、儚い記憶。


かつて兄は、父と喧嘩した私を匿って部屋へ居させてくれた。

その時兄が聴いていた曲、無伴奏チェロ組曲。私が今聴いている、この曲だ。それに、父が私を探しに来て、匿っていた兄が父に怒られて、この本を落としたんだ。


兄は、お兄ちゃんは、やっぱりこの本を読んでいたんだ。

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それは確かに愛だった 水篠 皐月 @SatsukiMizusino

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