第50話 温泉レポ

 めずらしい温泉のレポートをする仕事をしていた。

 現場に着くとすぐに責任者からあれこれ説明をうける。温泉に入った状態で言われた説明を話さないとならない。

 責任者は青年だった。

「ここはひとつの湯船にふたつの温泉が入っていまして、それも性質が違うから混ざらないんですよ」

「めずらしいですね」

「片方は45度と熱く、片方は37度と冷泉なんです」

「へええ」

「温泉の名前もそれぞれついていまして」

「はい」

 間違えないようにしなきゃ。

「熱いほうはYES縄文時代、ぬるいほうはNO縄文時代といいます」

 吹き出すのを我慢した。

「めっめずらしい名前ですねっ」

「この温泉が見つかった時に、偉い先生がつけた名前です。当時は明治のなん年だったかな」

 温泉の壁にかけてある古い木の看板には、確かに達筆で表示があった。


 『YES縄文時代← →NO縄文時代』


 どこの先生だか知らないがすごい名前をつけてくれたものだ。本番で笑わずにレポートする自信がない。



 ここで目が覚めた。

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万華鏡散歩2 /夢のおく 羽風草 @17zou

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