晋皇族 司馬氏

司馬冏1 嵆紹の矜持   

斉王せいおう(八王) 司馬冏しばけい 全2編



八王はちおうの乱真っただ中の時の話。

乱倫を尽くしていた司馬倫しばりんを倒し、

国の中枢に辿り着いた司馬冏。


ここで嵇康けいこうの息子、嵇紹けいしょうを側仕えにし、

政策について諮問した。


ある日司馬冏、宴会を開く。

葛旟かつよ董艾とうがいと言った面々がいる。

要は司馬冏の太鼓持ちたちだ。


彼らは嵇紹のことをよく知っている。

あの反逆者、嵇康の息子だ。

そのくせに斉王のお傍に侍りやがる、

ムカつく奴。


なので彼らは言う。


「嵇紹殿と言えば、楽器の達人。

 一曲弾いてもらうと良いのでは?」


そう言って、楽器を持って来させた。

が、嵇紹。突っぱねる。


おいおい、風情が無いね。

司馬冏、嵇紹に言う。


「この時間を共に楽しもう、

 と言う配慮ではないかね。

 何をそう意固地になるのだ?」


すると嵇紹、答えた。


「私は大司馬が、

 陛下をお助けすべく働くのを

 お手伝いするためにおります。


 この嵇紹、賤しき者ではございますが、

 今は侍中の任を拝命したる身。


 楽器を奏でるのは楽士のなすべきこと。

 陛下の扶翼の役ではございませぬ。

 楽士の真似なぞしておれましょうか。


 どうしても、と仰るのであれば、

 この職を辞し、あくまで一私人として

 演奏を披露してご覧に入れましょう」


うっ、ダメだこいつ、剛直すぎる。

その言葉の圧に負けた葛旟たち、

すごすご退散したのだそーな。




齊王冏為大司馬輔政,嵇紹為侍中,詣冏咨事。冏設宰會,召葛旟董艾等共論時宜。旟等白冏:「嵇侍中善於絲竹,公可令操之。」遂送樂器。紹推卻不受。冏曰:「今日共為歡,卿何卻邪?」紹曰:「公協輔皇室,令作事可法。紹雖官卑,職備常伯。操絲比竹,蓋樂官之事,不可以先王法服,為伶人之業。今逼高命,不敢苟辭,當釋冠冕,襲私服,此紹之心也。」旟等不自得而退。


齊王冏の大司馬と為りて輔政せるに、嵇紹は侍中と為り、冏を詣で事を咨る。冏は宰會を設け、葛旟、董艾らを召じ共に時宜を論ず。旟らは冏に白く:「嵇侍中は絲竹に善からば、公は之を操ぜしむべし」と、遂に樂器を送る。紹は推卻し受けず。冏は曰く:「今日の共に歡を為したるに、卿は何ぞ卻けたらんや?」と。紹は曰く:「公の皇室に協輔せるに、事を作すを法たるべし。紹は卑しき官なると雖も、職は常伯に備わる。絲を操じ竹を比したるは、蓋し樂官の事なれば、以て先王の法服たるべからず、伶人の業を為さん。今、高命を逼られ、敢えて苟くも辭さざらば、當に冠冕を釋き、私服を襲わん。此れ紹の心なり」と。旟らは自ら得ずして退る。


(方正17)



司馬冏

八王の乱中盤の主役。八王の乱はだいたいが司馬炎しばえんの息子や孫たちの争いなのだが、この人は司馬炎の弟にして、司馬炎とも皇位を争った人、司馬攸しばゆうの息子。つまり存在自体が火種。賈南風かなんふうを殺してデカいツラした司馬倫を倒したまではいいが、間もなく司馬炎の孫たちの連携を食らって殺される。ここで嵇紹が後日司馬衷のために命を投げ出したって未来図まで織り込むと、嵇紹もそんな本腰入れて司馬冏の配下として尽くす気もなかったんだろうなあ、と言うのが伺える。ところでいきなり八王の乱の話ブッ込むと司馬祭でこの解説がひどいことになりますね。


嵇紹

体制に反乱した奴の息子であるから本来はそう引き立てられるはずもなかったのだが、山濤さんとうの推挙によって取り立ててもらえた。ただまぁここで葛旟とか董艾が「おい楽器弾けよ」とか言い出してるのを見ると、やっぱり司馬冏臣下にはあんまり歓迎されてなかったっぽい。嵇紹さん、ここに出てくる奴ら、どいつもこいつも嫌いだったんだろうなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る