殷仲堪1 倹約刺史さま  

晋末の困った奴ら 殷仲堪いんちゅうかん 全5編

 既出:司馬昭1、孝武5、謝安50

    王恭6、顧愷之3、顧愷之5

    桓玄1、桓玄2、桓玄3

    桓玄8、桓玄10、桓玄20

    王珣2、王珣4、韓伯4



殷仲堪が荊州けいしゅう刺史となった時、

水害が起きた。


民が食糧不足にあえぐ中、

長官が贅沢をするわけにもいかない。

五品程度の食事をとるようにし、

他に余計なものは食べなかった。


……いえ十分豪勢ですからね?


食事の時、ぽろりと米粒が

お盆の外にこぼれ落ちた。

そしたら殷仲堪、

すぐさまそれを拾い、食べた。


自らが率先したい、

と思ってのことではあったのだが、

一方では、彼自身の素朴な

人柄ゆえの行動であった。


殷仲堪、常に子供たちに言っている。


「荊州刺史の大任を受けたからと、

 私の気が大きくなった、

 などとは思わぬようにな。


 こうしている私は、

 往時と何も変わってはおらぬ。


 列子も言っているだろう、

 貧なるは士の常、とな。


 お国の一枝葉に

 登ったからと言って、

 どうしてお国を

 損なう真似ができようか?


 そのことは、そなたら一人一人も、

 重々に踏まえおくように!」




殷仲堪既為荊州,值水儉,食常五碗盤,外無餘肴。飯粒脫落盤席閒,輒拾以噉之。雖欲率物,亦緣其性真素。每語子弟云:「勿以我受任方州,云我豁平昔時意。今吾處之不易。貧者士之常,焉得登枝而捐其本?爾曹其存之!」


殷仲堪の既にして荊州に為りたるに、水儉に值い、食は常に五碗なす盤にして、外に餘肴無し。飯粒の盤と席との閒に脫落せるに、輒ち拾い以て之を噉らう。率物を欲したると雖も、亦た其の性の真素を緣す。每に子弟に語りて云えらく:「以て我が方州の受任せるを以て、我が昔時の意を豁平せんと云いたる勿れ。今、吾、之を處すに易らず。貧なるは士の常にして、焉んぞ枝に登りて其の本を捐ねたるを得んや? 爾ら曹、其れ之を存ずべし!」と。


(德行40)




質素な殷仲堪さん。

それはいいんだけどこの条に関しては井波律子いなみりつこ先生のツッコミを紹介せずにはおれない。「いやー、ちょっとこの振る舞い、ポーズっぽくてどうなのって思いますわ……」って、井波先生、辛い! 何なのその殷仲堪に対する辛さ! いやいい人だと思うよ!

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