王忱1  名士、王珉   

晋末の困った奴ら 王忱おうしん 全3編

 既出:孝武5、王恭1、王恭8、王恭9

    王恭10、王恭13、王恭15

    桓玄15、王珣3、王国宝1

    王国宝2



王珣おうしゅんの弟、王珉おうみんについてのことだ。

琅邪ろうや王氏出身の名士。

かれの才能は、当代において

かなり高いランクに

位置付けられていたようだ。



例えば、王忱が人事部勤めであった時、

朝廷に推挙すべき

人物のリストを作成していた。

一通りリストアップが済んだところに、

王珉がやって来る。


やあ、王珉。

推挙したい人物を選んでみたのだ。

君はどう思う?


王忱、王珉にリストを見せる。

すると王珉、その内の半分を

書き換えてしまう!


が、見返してみると。

王忱は唸る。

王珉案のほうがはるかに素晴らしい。


なので王忱、それを書き写し、

提出するのだった。



また王珉、張天錫ちょうてんしゃくとも接点があった。


張天錫といえば前涼ぜんりょうのラストエンペラー。

東晋とうしんのやや前に建てられ、

百年近く涼州で覇を唱えていた一族だ。


が、前秦ぜんしんによって滅ぼされ、

更にその前秦が崩壊したのをきっかけに

東晋入りすることとなった。


遠方出身の人物とはいえ、

やはり彼は傑物である。

建康に雄才が多いと聞いており、

期待に心躍らせ、やってきた。


が、そんな建康の、

港で会った奴がいけない。


露骨に媚び諂うような

顔つきにして、言葉遣い。

全くもって、取り合うに値しない。


あぁ、もしかして、

来るんじゃなかったのか……

これなら涼州を引き続き守っていた方が、

どれほどマシだったことだろうか。


そう後悔しかけた張天錫のもとに、

一人の名士がやってきた。

そう、王珉である。

かれを見た張天錫、ビビる。


風格は気高く、清い。

流れるがごとき言辞は

古今の様々な事柄に

知悉しておらぬものもなく、

あらゆる人物の系譜来歴を知り、

また説くところ全てに

確かなよりどころがあった。


おぉ、こんな人物がいるのか!

張天錫、大いに感動したという。




 王大為吏部郎,嘗作選草,臨當奏,王僧彌來,聊出示之。僧彌得便以己意改易所選者近半,王大甚以為佳,更寫即奏。

 王大の吏部郎と為りたるに、嘗て選草を作し、當に奏ぜんとせるに臨み、王僧彌は來たり、聊か出で之を示す。僧彌は便ち己が意を以て選びたる所の者を改易したらば、半ばに近きを得る。王大は甚だ以て佳と為し、更に寫し即ち奏ず。

(政事24)


 張天錫世雄涼州,以力弱詣京師,雖遠方殊類,亦邊人之桀也。聞皇京多才,欽羡彌至。猶在渚住,司馬著作往詣之。言容鄙陋,無可觀聽。天錫心甚悔來,以遐外可以自固。王彌有俊才美譽,當時聞而造焉。既至,天錫見其風神清令,言話如流,陳說古今,無不貫悉。又諳人物氏族,中來皆有證據。天錫訝服。

 張天錫は涼州の世雄にして、力の弱まりたるを以て京師に詣で、遠方の殊類と雖も、亦た邊人の桀なり。皇京の才多きを聞き、欽羡し彌よ至る。猶お渚に在りて住み、司馬、著作は往きて之を詣づ。言容は鄙陋にして、觀聽すべく無し。天錫が心に甚だ悔いの來たらば、以えらく、遐外を以て自ら固むべかりき、と。王彌に俊才美譽有り、當時に聞きて造る。既にして至らば、天錫は其の風神清令にして言話は流るるが如く、古今を陳べて說かば、貫悉ならざる無きを見る。又た人物氏族を諳んじ、中來は皆な證據せる有り。天錫は訝服す。

(賞譽152)




張天錫

なんと! 「五胡の王たち」ですっかり拾い忘れておりました!(デデーン)


前涼のラストエンペラー。こいつてめえで先代の王殺したりとかしときながら「前涼が滅んだのは時の流れからすれば仕方ないんですー、ぼく悪くないんですー」とか言いやがるかなりのクソ野郎だから大好き。

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