王献之3 庭以外見えない 

王献之おうけんし会稽かいけいから

に北上した時のことだ。


呉に住む顧辟疆こへききょうの家の庭が

手入れの行き届いたものだと聞き、

訪れる。


王献之がやってきたとき、

顧家の庭には客人が沢山。

みなで楽しく宴会をしていた。


そんなところに

輿に乗ってひょっこり現れた王献之。

ここがいい、ここが気にくわないと、

主人も客人も無視し、

ひとり品評会を開催し、

帰ろうとする。


は? なんだオメー?

顧辟疆、そりゃキレる。


「家の主人の前で驕った態度、

 クソだ!

 偉いからってちょづく奴、

 クソだ!


 お前はクソアンドクソだ、

 人間未満だ!

 この北のなまっちょろヅラ野郎!」


そう言って、輿を担いでいた者たちを

追い払い、門の外に追い出してしまう。


が、王献之。

気にしない。


んー、あの辺いいね、ここはちょっと。

まだやってる。

側仕えたちがいなくなったことも

まるで気にしていない。


うげぇ、なんだアイツ……。

どうしようもない。

顧辟疆、何とか王献之を退去させる。


その段に至っても、王献之は

庭以外のことをなにも

気に留めていないのだった。




王子敬自會稽經吳,聞顧辟疆有名園。先不識主人,徑往其家,值顧方集賓友酣燕。而王遊歷既畢,指麾好惡,傍若無人。顧勃然不堪曰:「傲主人,非禮也;以貴驕人,非道也。失此二者,不足齒人,傖耳!」便驅其左右出門。王獨在輿上回轉顧望,左右移時不至,然後令送箸門外,怡然不屑。


王子敬は會稽より吳を經、顧辟疆に名園の有したるを聞く。先に主人を識らず、徑ちに其の家に往かば、顧の方に賓友を集め酣燕せるに值う。而して王は遊歷を既に畢え、麾にて好惡を指し、傍らに人無きが若し。顧は勃然として堪らずに曰く:「主に傲りたる人、非禮なり! 貴を以て驕りたる人、非道なり! 此の二者を失わば、人に齒せるに足らじ、傖なるのみ!」と。便ち其の左右を驅らせ門より出だす。王は獨り輿上に在りて回轉顧望せど、左右は時の移れど至らざらる。然る後に送りて門外に箸かしむるに、怡然不屑なり。


(簡傲17)




顧辟疆

呉郡顧氏と言う事でどう考えてもクッソ名家なのだが、どんな系譜のひとなのかはさっぱり書かれていない。平北将軍の参軍を歴任した、くらいの経歴はある。しかし、何故お前たちは「誰の下についていたのか」を飛ばして官号だけを残すのか。フラストレーションがたまりまくりである。

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