支遁11 王徽之はクソ  

支遁しとん会稽かいけいを訪問した時、

王徽之おうきしをはじめとした、

王羲之おうぎしジュニアたちと

会談する機会があった。


会見が終わって戻ってきた支遁に、

ある人が聞く。


「王氏の皆様はいかがでしたか?」


支遁は答える。


「白いそっ首のカラスどもが

 がーがー喚いておったな」



別の日のこと。


王徽之が謝万しゃまんのところに遊びに行った。

待ってなにその二人オールスター。


と、謝万のところにはすでに支遁がいる。

しかも明らかに同席している者たちを

見下している。


王徽之、以前の意趣返しなのだろうか。

ふふんと言った。


「もし支遁様の髪とヒゲが

 万全であらせられたら、

 いよいよ風格が

 備わるのではないかね?」


支遁、お坊さんである。

ヒゲこそ生えていたが、髪はない。

要は「このハゲが!」

と嘲笑ったのだ。


すると謝万は言う。


「唇と歯は持ちつ持たれつで、

 どちらが欠けていいものではない。

 だがひげや髪の毛と、

 どう風格が関わってくるのだろうな?」


え? 髪の毛あったからと言って、

この人に風格なんか出る?

まっさかぁー! と言う感じである。

エグい、エグいぞ謝万。


二人のやり取りを聞き、

支遁、ぶすっとする。

そして投げやりに言う。


「あーあー、拙僧のこの身、

 好きにいじってくれて構わぬわい」




支道林入東,見王子猷兄弟。還,人問:「見諸王何如?」答曰:「見一群白頸烏,但聞喚啞啞聲。」

支道林の東に入るに、王子猷兄弟に見ゆ。還ざば、人は問うらく:「諸王を見たるに何如?」と。答えて曰く:「一群なる白き頸の烏を見たり、但だ啞啞なる聲の喚かるを聞くのみ」と。

(輕詆30)


王子猷詣謝萬,林公先在坐,瞻矚甚高。王曰:「若林公鬚髮並全,神情當復勝此不?」謝曰:「脣齒相須,不可以偏亡。鬚髮何關於神明?」林公意甚惡。曰:「七尺之軀,今日委君二賢。」

王子猷の謝萬を詣づるに、林公が先に坐に在りて瞻矚せること甚だ高し。王は曰く:「若し林公が鬚髮の並べて全からば、神情は當に復た此に勝れりや不や?」と。謝は曰く:「脣齒は相い須め、以て偏亡すべからず。鬚髮の何ぞ神明に關けんか?」と。林公が意は甚だ惡し。曰く:「七尺の軀、今日にては君ら二賢に委ぬ」と。

(排調43)




王子猷兄弟ってことは、たぶん王徽之と王献之が一緒にいた、ってことでしょうね。支遁は王徽之はともかく、王献之の「東晋交際世界における名声」は見抜けなかった。いや、支遁の時代における名士たちと較べたら王献之もそこそこ扱いにしかならない、ってことかもしれませんけど。ともあれ支遁さんもまぁ、なかなか、なかなかになかなかな人品の持ち主でいらっしゃるんですね、とゆうね。

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