袁喬2  ねぼすけをイジる

袁喬えんきょう劉惔りゅうたんのところに遊びに行く。

すると劉惔、寝室で眠ったまま。

全然起きてこない。


袁喬、それをからかうための詩を書く。


角枕粲文茵 錦衾爛長筵

 枕には文様がピカピカし、

 掛け布団もキラキラしているな!


……これのどこが

からかいの言葉なのだろうか?


詩経しきょう国風こくふう 唐風とうふうを拾う必要がある。


しん献公けんこうが戦争好きであったため、

晋国内には多くの死者が出た。

そのことを歌った詩に、こうある。


角枕粲兮 錦衾爛兮

予美亡此 誰與獨旦

 枕も布団も美しい。

 だがそこに横たわる愛する人は

 もはや、死者である。

 あぁ、私は誰と共に夜を

 明かすことができるというのだ。


つまり袁喬、劉惔に対して

いつまでも寝コケてやがって、

さては死んだか、あ?

そうあてこすったわけなのだ。


この袁喬の詩で誰が切れたって、奥さま。

なおこの方、明帝めいていさまの娘である。


袁喬の当てこすりになぞらえれば、

勝手に彼女にとっての「予が美」を

殺されたことになる。

ふざくんなよお前、ってなもんだ。


なので奥さまは言っている。


「袁喬、あいつ、

 過去からタイムスリップしてきた

 キチガイなのかしら!?」




袁羊嘗詣劉恢,恢在內眠未起。袁因作詩調之曰:「角枕粲文茵,錦衾爛長筵。」劉尚晉明帝女,主見詩,不平曰:「袁羊,古之遺狂!」


袁羊の嘗て劉恢を詣でるに、恢は內に在りて眠り未だ起きず。袁は因りて詩を作りて之を調いて曰く:「角枕は文茵に粲じ、錦衾は長筵を爛ず」と。劉は晉が明帝の女を尚せり。主は詩を見、平らかならざりて曰く:「袁羊は古の遺狂なり!」と。


(排調36)




袁喬

その苗字が示す通り、あの袁宏えんこうさんの親族である。そして「その才能はすげえけど近くにはいてほしくない」と、袁宏さんも言われてそうな評価を貰っている。とりあえずこのエピソードも夫婦に揃ってケンカを売っているような内容だし、確かに近くにはいてほしくない。


劉恢りゅうかい

本来劉惔とは別人扱いなのだが、ここでは面倒くさいので一緒の人扱いしている。つうかねぼすけエピソードは桓温かんおんさまと劉惔にもあって、キャラがものすっげえかぶってんですよね。しかも劉孝標りゅうこうひょうの注によると劉恢は「廬陵ろりょう長公主」を娶ったという事なのだが、ここで晋書を覗いてみると劉惔の項にも「尚明帝女廬陵公主」と載っているのだ。えーと……別人扱いする意味なくないですかねえ? それとも明帝さま、姉と妹を二人とも廬陵に封じたん? そんなことってありえるのかしら。なお校箋では「いやこれ普通に劉惔の誤植でしょ」とぶった切っておられるもよう。

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