王済3  孫楚の歎き   

孫楚そんそは才能豊かで、若い頃から

いろんな人から仰ぎ見られていた。


が、かれ自身が敬服していたのは、

王済おうさい、ただひとり。


その王済が、死んだ。

たくさんの名士たちが葬儀に参列。

そこにやや遅れて、孫楚も到着する。


遺体の前に座り、孫楚、慟哭。

もらい泣きするものも、多数。


一通り慟哭したあと、孫楚は言う。


「きみはおれのやる

 ロバの鳴き真似が好きだったな。

 ならばはなむけだ。

 最後に、君に披露しておこう!」


そして、葬儀の只中、

名士らが居並ぶ中、

ロバの鳴き真似を披露する。


人々はびっくりするやら、呆れるやら。

中には露骨に、くすくす笑う者までいた。


孫楚、彼らを見て、言い放つ。


「そなたらがのうのうと生きていて、

 なぜかれが死なねばならんのだ!」




孫子荊以有才,少所推服,唯雅敬王武子。武子喪時,名士無不至者。子荊後來,臨屍慟哭,賓客莫不垂涕。哭畢,向靈床曰:「卿常好我作驢鳴,今我為卿作。」體似真聲,賓客皆笑。孫舉頭曰:「使君輩存,令此人死!」


孫子荊の有才なるを以て、少きに推服さる所たれど、唯だ王武子のみを雅敬す。武子の喪ぜる時、名士に至らざる者無し。子荊は後に來たり、屍に臨み慟哭せば、賓客に涕に垂んとせざる莫し。哭を畢え、靈床に向いて曰く:「卿は常に我が作したる驢が鳴を好めり、今、我れ卿が為に作さん」と。似て真に聲を體し、賓客は皆な笑う。孫は頭を舉げて曰く:「君が輩をして存ぜしむるに、此が人をして死なしまんか!」と。


(傷逝3)




王済と王粲おうさん、で引っ掛けてる話なんでしょうかね。これで王粲が太原たいげん王氏なら完璧だったんだが、残念、山陽さんよう王氏でした。


こちら参照。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054884957674


ロバの鳴き声を好む、というのは、まぁたぶんに滑稽なふるまいだったんだろうとは思うわですよ。それをあえて演じる、それも真剣に、というところに含意があるんでしょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る