王愷1  贅沢モノの狂宴3

王愷おうがい

武帝18、武帝19、石崇1、石崇2



王愷は「八百里駮はっぴゃくりこう」と言う名の

牛を飼っていた。

一日に八百里を行く牛、という事だ。

常にその角、ひづめを磨いていた。


王愷のところに、王済おうさいがやって来る。

そして言う。


「王愷、賭けをしようぜ。

 射的だ。


 おれの射的の腕は君に及ばないが、

 あの牛が欲しい。


 おれが負ければ千万銭を出す。

 どうだ?」


ほう、射的か。

王愷、そいつには一方ならぬ自信がある。

それにいくら負けたところで、

あんな足の速い牛を、

まさか王済だって殺したりはしないだろう。


そう思い、承諾。


そしたら、こういう時にキメてくるのが、

王済、という人だったらしい。


すっくと立ちあがって射ると、

一発で的を射抜く!


そしてまた椅子に腰かけると、

側仕えたちに言った。


「よし、あの牛の心臓を持って来い!」


ファッ!?

とは言え今更王愷が

何かを言えた立場でもない。


王済のもとに、あぶられた牛の心臓が届く。

王済、がぶりとひと口を喰うと、

すぐさま立ち去った。




王君夫有牛,名「八百里駮」,常瑩其蹄角。王武子語君夫:「我射不如卿,今指賭卿牛,以千萬對之。」君夫既恃手快,且謂駿物無有殺理,便相然可。令武子先射。武子一起便破的,卻據胡床,叱左右:「速探牛心來!」須臾,炙至,一臠便去。


王君夫は牛を有し、「八百里駮」と名づけ、常に其の蹄角を瑩とす。王武子は君夫に語るらく:「我が射は卿に如かざるも、今、卿が牛を指賭さらば、千萬を以て之に對えん」と。君夫は既にして手快なるに恃み、且つ駿物を殺せるの理を有せる無しと謂え、便ち相い然可す。武子をして先に射せしむ。武子は一に起ちて便ち的を破り、卻きて胡床に據し、左右を叱るらく:「速やかに牛を探り心を來らむべし!」と。須臾にして炙さるるの至らば、一に臠らい便ち去る。


(汰侈6)




牛の心臓が高価な食材と言うのは周顗しゅうぎさんの宴席で王羲之おうぎしが特に躊躇することなくガブリと言っていた話にも出てきた。まぁそんなもんなんでしょう。つーかあの王愷が手塩にかけて育てた牛の最上部位を一口だけ食ってあとは捨てるとか、さすが王済さん、世説新語さんが汰侈ヒエラルキー最上位に据えるだけのことはある。


ところでこのエピソードの一番面白いところは本文ではなく、注である。以下転載。


相牛經曰:「牛經出寧戚,傳百里奚。漢世河西薛公得其書,以相牛,千百不失。本以負重致遠,未服輜軿,故文不傳。至魏世,高堂生又傳以與晉宣帝,其後王愷得其書焉。」臣按其相經云:「陰虹屬頸,千里。」注曰:「陰虹者,雙筋白尾骨屬頸,寧戚所飯者也。」愷之牛,其亦有陰虹也。寧戚經曰:「棰頭欲得高,百體欲得緊,大□疏肋難齡齝,龍頭突目好跳。又角欲得細,身欲促,形欲得如卷。」


劉孝標りゅうこうひょう、めっちゃ語ってる。それだけ良い牛を持っていることがステータスにもつながったんですねーと言う感じでもあるのだが、現代人から見ると「いやいやいやいやwwwwwwこのエピソードで牛のありようの詳細とか余計なお世話でしょwwwwwww」としか感じられないのが素敵。

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