劉伶2  全裸オヤジの矜持

劉伶りゅうれいは身長が 140㎝ あまり、

その顔つきも甚だ醜かったが、

常に悠々とした振る舞いでおり、

自らの身体を土か木のようなものだと

見做していた。



どんな感じだったかと言うと、まっぱ。

家の中にいる時、酒を飲みながら、全裸。


やばい。


おいお前キチガイかよ、

ある人が劉伶をからかった。


すると劉伶は言う。


「俺は天地を家、家を服としている。


 なんで貴方がたは、

 俺の服の中に潜り込んできた?」


いやいや……。



さて、そんな劉伶さん。

のちの世に残した文章は、ただ一編。

酒德頌しゅとくしょう」のみである。


ここには、かれの気概が記されていた。




劉伶身長六尺,貌甚醜悴,而悠悠忽忽,土木形骸。

劉伶が身長は六尺、貌は甚だ醜悴なれど、悠悠忽忽として、形骸を土木とす。

(容止13)


劉伶恆縱酒放達,或脫衣裸形在屋中,人見譏之。伶曰:「我以天地為棟宇,屋室為(巾軍)衣,諸君何為入我(巾軍)中?」

劉伶は恆に酒の放達なるを縱とし、或いは衣を脫ぎて裸形にて屋中に在り、人の見ゆるに之を譏る。伶は曰く:「我、天地を以て棟宇と為し、屋室を(巾軍)衣と為したり。諸君は何ぞ我が(巾軍)中に入れるを為さんか?」と。

(任誕6)


劉伶著酒德頌,意氣所寄。

劉伶は酒德頌を著し、意氣を寄す所とす。

(文學69)




酒德頌


有大人先生者

以天地為一朝 萬期為須臾

日月為扃牖 八荒為庭衢

 大人先生、と呼ばれる人がいる。

 長らくの時を悠然と生き、

 太陽や月を窓と見なし、

 世界全てを庭とみていた人だ。

 

行無轍跡 居無室廬

幕天席地 縱意所如

 どこに赴くにも足跡を残さず、

 決まった家を持つこともない。

 空を天井、地面を席とし、

 心の赴くままに過ごしている。


行則操卮執瓢 動則挈榼提壺

唯酒是務 焉知其餘

 どこかに移動するときには

 杯を手にし、酒樽を抱える。

 務めとすべきはただ飲酒、

 他のなにもが余事である。

 

有貴介公子 縉紳處士

聞吾風聲 議其所以

乃奮袂攘襟 怒目切齒

陳說禮法 是非鋒起

 貴公子、紳士らが、

 己の風評を耳にして、

 その出所を求めて躍起になり、

 ムキになって

 礼法うんぬんを説くころ。


先生於是方捧罌承糟

銜杯漱醪

 先生はそれを眺めながら、

 杯を掲げ、濁り酒で口を漱ぐ。


奮髯箕踞 枕麴藉糟

無思無慮 其樂陶陶

 ざんばら髪で、足を投げ出し、

 酒ぬかに顔をうずめて。

 何も考えず、憂慮もなく。

 ただただ、陶然としているのだ。


兀然而醉 慌爾而醒

 ほんわりと酔い、ふと、醒める。 


靜聽不聞雷霆之聲

熟視不見太山之形

 耳を澄ましても、

 雷の音すら聞こえず。

 目を凝らしても、

 山の形すら判然としない。


不覺

寒暑之切肌

利欲之感情

 気付くこともない。

 暑さ寒さが肌を刺すことも、

 欲望が感情を揺さぶることにも。


俯觀萬物之擾擾

如江漢之載浮萍

 いと高き所より、

 世の中の騒がしきことを眺める。

 どうだ、彼らのせわしなきこと、

 長江、漢水の流れに翻弄される

 木の葉のようではないか。


二豪侍側焉

如蜾蠃之與螟蛉

 喧々諤々とする貴公子らの側で

 ただただたたずまうその有様は、

 ジガバチが桑虫を背負って

 あくせくとしているかのようではないか。




えっなにこの全裸オヤジ……

かっこいい……


庾冰ゆひょうのところに出てきた兵卒さん

を、思い起こさせられます。


ただの酒カスかと思えば、

荘子斉物論「大澤焚而不能熱,河漢沍而不能寒,疾雷破山、風振海而不能驚。」

荘子秋水編「火弗能熱,水弗能溺,寒暑弗能害,禽獸弗能賊。」

から援用したと思われる内容も含まれていたりする。かなりその振る舞いについては荘子を読み込んだ形跡が見出されたりもするのが、この劉伶という人。正直阮籍のところに出てきた真人ってこんな感じだったんじゃないか、的な気もしてならない。

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