桓玄4  羊孚さんのこと1

桓玄かんげん幕下で特筆されるべき文人がいた。

羊孚ようふ。桓玄陣営にとっての良心、

とでも言うべき人だった。



ある時桓玄、羊孚に質問している。


「どいつもこいつもが

 訛りなんぞをありがたがっている。

 あれのどこがいいんだ?」


羊孚は答えている。


「その緩やかで、ふわりとしたところが

 心地良く感じられるのでしょう」



このように、周辺とぶつかりがちな

桓玄のキャラクターにとっては

緩衝材的な存在であった、と言える。



そんな羊孚が、わずは31歳にして死んだ。


桓玄、親族の書家である羊欣ようきん

このとこについて手紙を書いている。


「あなたのいとこ殿には

 非常にお世話になっていた。


 そんなかれが、急きょの病で

 亡くなってしまった。


 天は、私より子路を奪ったのだ。

 この気持ちを、

 どう言葉にできたものだろうか」




桓玄問羊孚:「何以共重吳聲?」羊曰:「當以其妖而浮。」

桓玄は羊孚に問うらく:「何をか以て共に吳聲を重んぜんか?」と。羊は曰く:「當に其の妖にして浮なるを以ちてなり」と。

(言語104)


羊孚年三十一卒,桓玄與羊欣書曰:「賢從情所信寄,暴疾而殞,祝予之歎,如何可言!」

羊孚の年三十一にして卒せるに、桓玄は羊欣に書を與えて曰く:「賢從は情の信に寄す所なれど、暴に疾みて殞す。祝予の歎、如何ぞ言うべけんや!」と。

(傷逝18)




祝予の歎

孔子が高弟の子路を喪ったときに漏らした言葉「天、予を祝てり」と嘆いたことに由来する。祝うって書いて「天は俺を殺そうとしてる」って解釈させるとか、ちょっとアクロバティックすぎませんかね……?

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