王敦13 憎しみの連鎖1 

琅邪ろうや王氏と司馬しば氏宗族の因縁の話である。


琅邪王氏の王敦おうとん

その手先として動いた王廙おうよく

そして王廙の息子、王胡之おうこし


司馬氏宗族のびん王、司馬承しばしょう

その息子、司馬無忌しばむき

以上が登場人物となる。



元帝げんていの命を受け、

王敦の乱を抑え込もうとした司馬承だが、

敗北して捕まり、王廙に殺された。


ただし、このことは長く

表ざたとならなかった。


司馬無忌、及びその兄弟も、

父の死の理由については

聞かされずに育てられていたのだ。

何故ならば、事実を知るには

あまりにも幼かったから。


真実を知らないまま育った司馬無忌、

長ずるに従い、王胡之と

親交を深める事となった。


そう、自らの父親の仇、

その、息子とである。


司馬無忌、

王胡之を連れて自宅に戻ると、

母に食事の用意を頼んだ。

すると母は、王胡之の顔を見るなり、

はらはらと涙を流すではないか。


「息子よ、お前のお父上はね。

 実は、あの王敦の指示で

 殺されておるのです。

 その実行犯が、この者の父、王廙。


 黙っていてごめんなさいね、

 けど、仕方がなかったの。

 琅邪王氏はあまりにも強大、

 それに対抗するのに、

 お前たちはまだ幼過ぎた。


 このことを言わずにおいたのは、

 変に表ざたにして、

 いたずらにお前たちを

 失いたくなかったからなのよ!」


司馬無忌、母のこの言葉を聞き驚愕、

知らず知らずのうちに剣を抜いていた。


一方の王胡之、司馬無忌の母の

涙の意味を早くに察し、

既に遠くに逃げ去っていた。



 

王大將軍執司馬愍王,夜遣世將載王於車而殺之,當時不盡知也。雖愍王家,亦未之皆悉,而無忌兄弟皆稚。王胡之與無忌,長甚相暱,胡之嘗共遊,無忌入告母,請為饌。母流涕曰:「王敦昔肆酷汝父,假手世將。吾所以積年不告汝者,王氏門彊,汝兄弟尚幼,不欲使此聲著,蓋以避禍耳!」無忌驚號,抽刃而出,胡之去已遠。


王大將軍は司馬愍王を執え、夜に世將を遣わせ王を車に載せ之を殺さしめんとせど、當時の盡くは知らざりたるなり。愍王の家と雖も、亦た未だ之を皆悉せず、而も無忌の兄弟は皆な稚し。王胡之と無忌は、長じるに甚だ相い暱しく、胡之は嘗て共に遊び、無忌は入りて母に告げ、饌を為さんと請う。母は流涕して曰く:「王敦の昔に汝が父を肆酷せるに、世將が手を假る。吾れ、積年汝に告げざりし所以は、王氏が門の彊く、汝が兄弟の尚お幼く、此の聲をして著わならしむを欲さざらば、蓋し以て禍を避くらばなるのみ!」と。無忌は驚號し、刃を抽きて出だす。胡之は去りて已に遠し。


(仇隟3)




ここまで読んできて、もうまるで背景が掴めなかったのもすげえなーと思いまんた。それにしてもこの王胡之の図太さすげえと言うか、むしろここは司馬無忌の懇ろなお誘いを断り切れなかった、とするのがいいのかなあ。王胡之もずいぶんなドラマを抱えているもんだ。はい、ここで王胡之に葛藤を抱えさせるのが大変な好みでございます。

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