王敦11 甕牖縄枢    

石崇せきすう王敦おうとんと一緒に太学だいがくに入ると、

常に二人して語らい合っていた。


石崇、壁にかかっていた孔子こうしの高弟、

顔回がんかい原憲げんけんの肖像を見て言う。


「おれが彼らと一緒に

 孔子に学んだとしたら、

 かれらにも引けを

 取らなかっただろうにな!」


ずいぶんな自信である。

それに対して王敦は言う。


「他の人が何と言うかは知らんが、

 まぁ、子貢しこうとは

 やや近いんじゃないか?」


顔回や原憲は清貧をもって知られていた。

中でも顔回は孔子の一番弟子として著名。

また、もう一人の原憲は、

王敦が挙げた子貢の銭ゲバっぷりを

手酷く糾弾し、やり込めた人物である。


なかなか王敦さん、

えぐいチョイスをなさる。


「お前じゃ顔回になんざ到底及ばないし、

 原憲を挙げるくらいなら

 むしろ原憲にやり込められた

 子貢のが合ってんだろうよ。

 銭ゲバなとこもそっくりだし」


ってなわけである。


なので石崇、かっと来る。


「士大夫たるもの、身も名声も

 等しく高くあるべきだ!


 どうして割れたカメを

 窓代わりにあてがうような

 貧乏暮らしをせにゃならん!」


いやいや、言い出しっぺアンタですよ……。




石崇每與王敦入學戲,見顏、原象而歎曰:「若與同升孔堂,去人何必有間!」王曰:「不知餘人云何?子貢去卿差近。」石正色云:「士當令身名俱泰,何至以甕牖語人!」


石崇は每に王敦と學に入りて戲る。顏、原の象を見て歎じて曰く:「若し與に同じく孔堂に升らば、去ましき人とに何ぞ必ずしも間有らんや!」と。王は曰く:「餘人の何を云えるは知らざれど、子貢の卿より去れたること差や近からん」と。石は色を正して云えらく:「士は當に身名を俱に泰らかしむべし、何に至りてか牖甕を以て人に語りたらんか!」と。


(汰侈10)




牖甕おうよう

原憲の暮らしぶりの話。貧乏、というより金銭や豪華な家に興味がなかったから、割れたカメの口の部分を壁にはめ込み、窓の代わりにしたんだと言う。そこから「甕牖縄枢おうようじょうすう」と言うのが貧乏暮らしを語る四文字熟語となった。ちなみに「縄枢」は家のドアの開け閉めする部分、普通は木で固定するべきところをひもで結びましたよ、という事。安定は悪いしすぐに切れちゃう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る