王敦2  大将軍ハブられる

八王はちおう東晋とうしん初期での美青年代表、衛玠えいかい

病弱な美青年はみんなの好物でした!


この時王敦おうとん大将軍だいしょうぐんとして

豫章よしょうに駐在していた。


衛玠が長江ちょうこうを渡り、

王敦おうとんのもとにやってきたとき、

王敦、大喜びで宴会を開いた。


宴会は数日にわたった。

やがてここに謝鯤しゃこんが合流。

あの謝安しゃあんさまの祖父である。

もちろん本人も抜群の学者肌。


お、いいところに来たな。

王敦、謝鯤に向けて言う。


「中原の荒れに荒れるこのご時世に、

 清談が始まった時代の遺風を

 感じられるとは思わなかったぞ。

 もし王澄おうちょうが生きていたら、

 きっとぶっ倒れた事だろうよ!」


へえ、それほどなんですか。

こうして謝鯤と衛玠、対話する。

これがまた、めっちゃ面白い。

なので王敦のことはシカトし、

夜っぴき、朝方まで清談に耽った。


王敦さん「ワシは……?」



さて衛玠、何せ身体が弱かった。

なので「体に悪い」と、

常々母親から清談を禁じられていた。


そして、この夜のはっちゃけである。


長旅の疲れ+清談疲れ、で、

病気がひどくなり、

起てなくなっちゃったそーである。


うーん王敦さんのとばっちりっぷり。




王敦為大將軍,鎮豫章。衛玠避亂,從洛投敦,相見欣然,談話彌日。于時謝鯤為長史,敦謂鯤曰:「不意永嘉之中,復聞正始之音。阿平若在,當復絕倒。」

王敦は大將軍と為り、豫章に鎮ず。衛玠は亂を避け、洛より敦に投ざば、相い見えて欣然とし、談話せること彌日たり。時に謝鯤の長史為るに、敦は鯤に謂いて曰く:「意えず永嘉の中にして、復た正始の音を聞きたらん。阿平若し在らば、當に復た絕倒せん」と。

(賞譽51)


衛玠始度江,見王大將軍。因夜坐,大將軍命謝幼輿。玠見謝,甚說之,都不復顧王,遂達旦微言。王永夕不得豫。玠體素羸,恆為母所禁。爾夕忽極,於此病篤,遂不起。

衛玠の始めて江を度れるに、王大將軍に見ゆ。夜に因りて坐し、大將軍は謝幼輿に命ず。玠は謝に見え、甚だ之に說び、都べて復た王を顧みず、遂には旦に達せるまで微言す。王は永夕、豫かるを得ず。玠が體は素にして羸、恆に母に禁ぜる所と為る。爾の夕にては忽ち極れ、此れに於いて病は篤くなり、遂には起たず。

(文學20)




たった二話を見ただけで王敦さんが乱を起こすのも仕方ないと思えてきたぞ。この人の扱い酷くない……?



阿平

「正始の音」は、魏明帝の時代に何晏たちが清談を立ち上げた頃のことを指す。そして何晏のあざなは平叔。なので一瞬この阿平は何晏のことを指すのかなとも思ったのだが、一方で王敦さんが何晏のことを「阿」、つまり親しい目下の人間として呼ぶのにも違和感がある。

とはいえ、自分でぶっ殺した王澄を捕まえてぶっ倒れるとか言い出す王敦さんもなかなかのキチガイなんだよなあ。ムツカチイところではある。

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