顧愷之5 了語と危語
やがて彼らは言葉遊びに興じた。
言葉のテーマを決め、
また、その言葉で韻脚を踏むのだ。
はじめにやったのは「了」語。
りょう、と同じ韻をふむ、
何らかの「終了した状態」を語る。
初手は桓玄。
「火燒平原無遺
平原を火が焼きつくした後、
もはや煙も立ち昇らない。
次いで殷仲堪。
「白布纏棺豎旒
白い布に包まれた棺の側に、
弔いの旗が立つ。
そして顧愷之。
「投魚深淵放飛
捕まえた魚を深みに返し、
捕まえた鳥を飛ばし放つ。
次いで、「危」語。
危機、危険について、
「き」を韻脚に、語る。
まずは桓玄。
「矛頭淅米劍頭
矛の切っ先でコメをとぎ、
剣の切っ先にカマをぶら下げ、
コメを炊く。
米とげないし! こぼれるし!
次いで殷仲堪。
「百歲老翁攀枯
よぼよぼジジイが
枯れ枝につかまる。
折れる! ショックで死ぬ!
そして顧愷之。
「井上轆轤臥嬰
井戸の滑車で遊ぶガキ。
落ちる! 落ちるがな!
そうやって彼らが
楽しんでいたところに、
別の参軍が飛び入りしてきた。
かれは言う。
「盲人騎瞎馬夜半臨深
盲人が片目の見えない馬に乗り、
夜半に深い池のそばに臨む。
いやいや、池にハマるから!
その参軍の言葉に、
殷仲堪が反応した。
「ちぇっ! こいつずいぶん、
俺に寄せてくんじゃねえか」
殷仲堪は片目の視力を失っていた。
参軍は、そこにあてこすってきたのだ。
桓南郡與殷荊州語次,因共作了語。顧愷之曰:「火燒平原無遺燎。」桓曰:「白布纏棺豎旒旐。」殷曰:「投魚深淵放飛鳥。」次復作危語。桓曰:「矛頭淅米劍頭炊。」殷曰:「百歲老翁攀枯枝。」顧曰:「井上轆轤臥嬰兒。」殷有一參軍在坐,云:「盲人騎瞎馬,夜半臨深池。」殷曰:「咄咄逼人!」仲堪眇目故也。
桓南郡と殷荊州は語り、次ぎては因りて共に了語を作す。顧愷之は曰く:「火の平原を燒きたるに、遺さるる無きは燎」と。桓は曰く:「白布を棺に纏わば、豎つるは旒旐」と。殷は曰く:「深淵に投ぐる魚、放たる飛鳥」と。次いで復た危語を作す。桓は曰く:「矛頭にて淅ぎたる米、劍頭にて炊」と。殷は曰く:「百歲の老翁、攀づるは枯枝」と。顧は曰く:「井上が轆轤に、臥さるは嬰兒」と。殷の有る一なる參軍の坐に在せるに、云えらく:「盲人の騎せる瞎馬、夜半に臨みたるは深池」と。殷は曰く:「咄咄! 人に逼らん」と。仲堪が眇目の故なり。
(排調61)
えっ部下に言われてんの殷仲堪さん……舐められてんのか、愛されてんのか。
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