王羲之11 キガチョー  

三國志さんごくしの時代、その文才を

大いに称賛されていた人、蔡邕さいよう

あの曹操そうそうにすら、希求されていた人だ。


かれはまた楽器の腕前も抜群であり、

例えば東晋とうしん後期の武将で、

その卓絶した笛の腕前で知られていた人、

桓伊かんいは、蔡邕から伝わった笛を

持っていた、とされる。


つまり、彼が用いていた楽器は、

とんでもないプレミアのつく状態だった。


そんな笛の一本が、偶然、

まだ幼き頃の孫綽そんしゃくの家にあった。


しかも孫綽、自分の家にいた妓女に、

その笛を貸し出してしまったという。


笛の価値なんぞよくわからん妓女、

力任せに振り回して、

遂にはへし折ってしまう。


それを聞いて大激怒は王羲之おうぎしさんである。


「!?


 あの笛が何なのか理解しているのか!?

 の時代、曹操そうそう曹丕そうひ曹叡そうえい

 三祖を祀った舞台で演奏された、

 由緒正しい楽器なのだぞ!?


 ○×●△😠ッッッ~~~~!!!


 孫家のクソガキ、

 やってくれおったわ!!!」




蔡伯喈睹睞笛椽,孫興公聽妓,振且擺折。王右軍聞,大嗔曰:「三祖臺樂器,虺瓦弔,孫家兒打折。」


蔡伯喈が睹睞の笛椽を孫興公は妓に聽さば。振りて且つ擺折す。王右軍は聞きて、大いに嗔りて曰く:「三祖臺の樂器なるに、虺瓦弔,孫家の兒は打折す」と。


(輕詆20)



虺瓦弔きがちょう

井波「なにこれ」

余「イミフ 誤植じゃね?」

目加田「未詳である、とは言え詩経には虺と瓦の対比に女性を連想させる詩句があり、となればこれは女性を侮蔑するという意味合いがあるのではないか、云々」


ひとまず中古音で拾うと xjəi-ŋwa-tiau とななる。強引にカタカナにすればシェイングヮティアゥ! みたいな感じになるだろうか。これを荒っぽく、早口で言うと、ブチ切れな語感にならないでもないが、こういうのって多分プラシーボ効果っていうんですよね。最近小梅太夫の「毎日チキショー!」がちらちら視界に入るから、そいつのせいで「キガチョー!」って叫びたくなるのは、まぁ余談です。


曹操の時にはボツにした話だけど、今見たら虺瓦弔って言葉、これまで触れてきたボキャブラリーから、あまりにもかけ離れてる。そいつが妙に面白かった。

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