王羲之10 禹湯の戒め  

謝万しゃまん寿春じゅしゅんで、前燕ぜんえん軍に惨敗した。


帰還するなり謝万、

王羲之おうぎしに宛てて手紙を書いている。


「日頃のご期待に

 背くことになってしまいました。

 恥じ入るばかりです」


手紙を一瞥した王羲之、

すぐに放り投げた。


「まさしく王、とう王が

 戒めとしていたことだな。


 奴が恥じるべきは私の期待にたいして、

 ではないだろうに。


 将兵を殺したこと、

 国土を失陥したことだ。


 奴の言葉には反省の色が

 まるで見受けられん」




謝萬壽春敗後,還,書與王右軍云:「慚負宿顧。」右軍推書曰:「此禹、湯之戒。」


謝萬の壽春より敗したる後に還りて、書を王右軍に與えて云えらく:「宿顧に負くるを慚づ」と。右軍は書を推して曰く:「此れ禹、湯の戒めなり」と。


(輕詆19)




禹王、湯王

いんの初代王。つまり「彼らが戒めとしていたこと」を謝万が破っていた、という事になる。で、そこの典拠となったと思しいのは春秋左氏伝しゅんじゅうさしでん荘公そうこう十一年の条。


禹、湯罪己,其興也悖焉。

 禹王湯王は己を厳しく律した。

 故に国を見事に興した。


桀、紂罪人,其亡也忽焉。

 けつちゅう王は他者を罰した。

 故に滅亡したのだ。


うーん、春秋、せめて左伝は触れるべきだよなー。

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