王恭6  笑いのツボ   

ガチャ目の殷仲堪いんちゅうかんの知人に

そこそこの文筆家がいた。

そんな彼が西晋代の文学家、束皙そくせきの文を

パロディした賦を書き上げてきた。


殷仲堪、これにめっちゃ笑った。

なので殷仲堪、王恭おうきょうにそれを

読ませたいと持ってくる。


「王恭、面白い文を見つけたのだ!

 ぜひ読んでみてくれ!」


そう言って風呂敷に包んだ箱の中から、

その文章を取り出し、読ませる。


王恭が読んでいる間も殷仲堪、

ニヤニヤが止まらない。

さあ来い、どっかんどっかん来い。

そんな殷仲堪の思いが伝わってくる。


が。


読み終わると王恭、にこりともせず、

とは言え批評などを下したりもせず、

ただ、手にした小さな棒で、

ちょい、とつつくだけだった。


殷仲堪、当てが外れて、

がっくりと肩を落とすのだった。




殷荊州有所識,作賦,是束皙慢戲之流。殷甚以為有才,語王恭:「適見新文,甚可觀。」便於手巾函中出之。王讀,殷笑之不自勝。王看竟,既不笑,亦不言好惡,但以如意帖之而已。殷悵然自失。


殷荊州に識らる所のもの有りて、賦を作す。是れ束皙が慢戲の流たり。殷は甚だ以て有才と為し、王恭に語るらく:「適たま新たな文を見たり。甚だ觀るべきなり」と。便ち手巾函中より之を出だす。王は讀み、殷は之を笑うこと自ら勝えず。王は看竟えるに、既にも笑わず、亦た好惡をも言わず、但だ如意を以て之を帖したるのみ。殷は悵然し自失す。


(雅量41)




束皙

西晋の一番いいときを生きた文人。盗掘にあった周朝期の墓から出てきた竹簡の内容を誰も理解できなかったのに、このひと一人が解析に成功した、みたいなことも載っている。司馬倫さんに幕僚として招かれ、応じてはいるが、速攻で辞任。おかげで司馬倫が中央で披露したオモシロダンスには付き合わずに済んだ。


王恭も殷仲堪も東晋末の政争で敗者になっていることを考えると、この話には負け残りトーナメント的な印象にもなりますね。負け組の中では王恭のほうが殷仲堪より優れてる、みたいな。

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