殷浩6  謝尚に説く   

謝尚しゃしょうが若かった頃、

殷浩いんこうさんの評判を耳にしていた。


三つ上のその人は、

めっちゃ清談がすげえ、と有名だった。


出会うと殷浩さん、挨拶もそこそこに

早速様々な議論のテーマを提示。

しかもいきなり数百語。速い。

好きなモノ語りするオタクか。

まぁオタクだな。


とは言えどのテーマも優れていたし、

何にも増して、その表現の豊かなこと!


あっちゅう間に謝尚も夢中になる。

一切を聞き逃すまいぞと

食い入って聞く謝尚。

知らず知らずのうちに、

その顔に汗が伝っていた。


すると殷浩さん、ふと語りを止め、

周辺の人に声を掛けた。


「誰か、手ぬぐいで

 謝どのの顔を拭ってくれんかね?」




謝鎮西少時,聞殷浩能清言,故往造之。殷未過有所通,為謝標榜諸義,作數百語。既有佳致,兼辭條豐蔚,甚足以動心駭聽。謝注神傾意,不覺流汗交面。殷徐語左右:「取手巾與謝郎拭面。」


謝鎮西の少き時、殷浩の清言を能くせるを聞き、故に往きて之に造る。殷は未だ過つて通ずる所を有さざれど、謝に諸義を標榜せるを為し、數百語を作す。既に佳なる致を有し、兼ねて辭條の豐蔚たれば、甚だ以て動心駭聽せるに足る。謝は神を注ぎ意を傾け、覺えずして流るる汗を面に交う。殷は徐に左右に語るらく:「手巾を取りて謝郎に與え面を拭くべし」と。


(文學28)




やだ殷浩さんジェントル……。


殷浩さんがものすっげえ強キャラ感出してて笑う。

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