陸雲   呉の旧姓の人たち

陸雲りくうん

 既出:陸遜、張華3、張華4

    陸機3、陸機4



ある人が、秀才にあげられた

蔡洪さいこう、という人に質問した。


エリアの名士というと、

 どのような方がおりますか?」


蔡洪は答える。


呉展ごてん

 呉の時代には清廉潔白な能吏として

 活躍したものの、呉が滅びると隠棲、

 門戸を閉ざし、

 余人と交わろうとしませんでした。

 聖王の世における賢老、

 太平の世における秀俊であります。


 朱誕しゅたん

 呉朝下でかれも人事面で活躍、

 現在は引退の身であります。

 人を治める友徳者であり、

 公正な人事を行う人望家です。


 厳隠げんいん

 地方長官として善政を敷きました。

 その思慮は深く、度量は広い。

 呉滅亡ののち、引退しております。

 彼のような方のことを

 奥深い澤に鳴く鶴、

 深い谷間に遊ぶ白馬と

 呼べましょう。


 顧栄こえい

 英明さと節度を兼ね備え、

 また琴の腕前も素晴らしきもの。

 まさに妙なる音色を奏でる琴、

 五色麗しき龍の文様のごとき方。


 張鴫ちょうちょう

 その人品の清らかさは、

 乱れた世の動きの中でも

 際立っておりました。

 真冬にあってなお枯れぬ松や柏、

 真夜中に輝く光です。


 そして、陸雲。

 かれの文筆の妙なること、

 その筆致は大空を悠々と舞う鳥、

 高く鳴り響く太鼓のばち、

 と言えましょう。


 彼らは大いに文筆をなしました。

 筆を鍬とし、紙を良田になぞらえ、

 幽玄なる思考もて耕作し、

 豊かなる論理を実りとして得る。


 彼らの談論は鮮やかな花。

 良心に従うさまは宝。


 絹糸のごとき言葉を編み上げ、

 為された五経の解釈はまさに

 雅やかなる絹の布地。


 謙虚なるを以て敷物とし、

 礼儀謙譲を以て天蓋とする。


 佇まうべき居場所はその仁義。

 依るべき住処はその道徳。


 そのように心がけ、

 身を修めております」



  

有問秀才:「吳舊姓何如?」答曰:「吳府君聖王之老成,明時之俊乂。朱永長理物之至德,清選之高望。嚴仲弼九皋之鳴鶴,空谷之白駒。顧彥先八音之琴瑟,五色之龍章。張威伯歲寒之茂松,幽夜之逸光。陸士龍鴻鵠之裴回,懸鼓之待槌。凡此諸君:以洪筆為鉏耒,以紙札為良田。以玄默為稼穡,以義理為豐年。以談論為英華,以忠恕為珍寶。著文章為錦繡,蘊五經為繒帛。坐謙虛為席薦,張義讓為帷幕。行仁義為室宇,修道德為廣宅。」


有るもの秀才に問うらく:「吳の舊姓は何如?」と。答えて曰く:「吳府君は聖王の老成、明時の俊乂たり。朱永長は理物の至德、清選の高望なり。嚴仲弼は九皋の鳴鶴、空谷の白駒なり。顧彥先は八音の琴瑟、五色の龍章なり。張威伯は歲寒の茂松、幽夜の逸光なり。陸士龍は鴻鵠の裴回、懸鼓の待槌なり。凡そ此ら諸もろの君、洪筆を以て鉏耒と為し、紙札を以てと良田と為す。玄默を以て稼穡と為し、義理を以て豐年と為す。談論を以て英華と為し、忠恕を以て珍寶と為す。文章を以て錦繡と為し、五經を蘊みて繒帛と為す。謙虛を席薦として坐し、義讓を張りて帷幕と為す。仁義を行いて室宇と為し、道德を修むらば廣宅と為す」と。


(賞譽20)




なげぇよバカ(挨拶)



蔡洪

蔡邕だとか蔡謨さんの親戚かと思ったらそう言う訳でもなかった。呉出身の人。呉滅亡後、秀才に選ばれて洛陽に出向、立身した。顧栄、陸雲以外はここで終了の人なので特に覚える必要ないです。


あと原文の種類によってはここにも陸機が登場してる。いや、少しぐらい弟くんのことワンセット扱いすんのやめたげましょうよ……とりあえず「どんな感じで文人を褒め称えるか」のボキャブラリー辞典っぽい感じになってるのが面白かったです。

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