庾亮15 庾敳さんのこと 

庾敳ゆがいさんのことを語っておこう。


世の中での評判は

「物事を道理に基づいて

 判別することが上手く、

 その上その賢明さを、

 徹底して秘匿しておられる方であった」

とのことだ。


そんな叔父さんのことを、

庾亮ゆりょうさまは、このように評価している。


「叔父上は殊更に清談で

 言辞を費やそうとなされない。

 ただ、その大要のみをお示しになった」


「その性情の伸びやかなることと来たら、

 まるで天にでも上るのではないか、

 と言ったご様子であった」



そして、こんな思い出もある。


未だ永嘉えいかの乱が起こるより以前、

庾亮さま、庾敳さんの自宅に訪問した。

ひとしきり話して帰ろうとしたら、

庾敳さんに引き留められる。


「まぁ待ちたまえよ。

 そろそろ、面白い奴らがくるぞ」


そうしてやってきたのが

溫幾おんき劉疇りゅうちゅう裴楷はいかい

彼らは庾敳さんらを交え、

日がな一日議論にくれる。


江南こうなんに逃れたあとも庾亮さま、

劉疇や裴楷の明晰なる思考を、

溫幾の公明正大さを、

どうにも忘れがたかった、という。




時人目庾中郎:「善於託大,長於自藏。」

時の人は庾中郎を目すらく:「大なるに託てるに於きては善く、自らを藏すに於きては長ず」と。

(賞譽44)


庾太尉目庾中郎:家從談談之許。

庾太尉は庾中郎を目すらく:「家が從、談談として之に許す」と。

(賞譽41)


庾公目中郎:「神氣融散,差如得上。」

庾公は中郎を目すらく:「神氣の融散せるに、差や上るを得たるが如しと。」(賞譽42)


庾太尉在洛下,問訊中郎。中郎留之云:「諸人當來。」尋溫元甫、劉王喬、裴叔則俱至,酬酢終日。庾公猶憶劉、裴之才俊,元甫之清中。

庾太尉の洛下に在すに、中郎を問訊す。中郎は之を留めて云えらく:「諸人當に來たるべし」と。尋いで溫元甫、劉王喬、裴叔則が俱に至らば、終日酬酢す。庾公は猶お劉、裴の才俊を、元甫の清中を憶ゆ。

(賞譽38)




溫幾

プロフィールが全然残っていない。太原温氏、つまり温嶠きょうさんの同族だってことがわかる程度だ。あの温嶠さんの親戚ってことは結構な折衝マンだったんだろうなぁとは思う。


劉疇

王導おうどうさまのところで出てきた人。「あの人さえこっちに来ておってくだされば、わしの肩にこんな重責が載らなかったであろうに」と王導さまをしてぼやかせるレベルのすげえ人であったそうである。


裴楷

つーか世説新語って裴氏のことちょっと嫌い過ぎてない? 正直ぜんぜん裴氏の皆さんの人となりが見えてこないんですけど。なんだかんだで王氏謝氏のキャラクターが強烈な分、余計にこの薄味一族の個性のなさが気になって仕方ない。

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