謝安59 気ままな阿羯くん

後に淝水ひすい東晋とうしんを大いに救う働きを為した

謝玄しゃげんであったが、若い頃には散々

フリーダムな振る舞いをしていた。



例えばあるさわやかな夏の朝、

仰向けでぐだっと寝そべっていたところに

いきなり謝安しゃあんさまが現れたことがあった。


うひい、不意打ちすぎんだろ!

ろくに着替える事も出来ず、

裸足でバタバタと部屋を飛び出す。

何とか履物だけはひっかけ、

謝安さまに挨拶をする。


すると謝安さまは言うのだ。


「お前は蘇秦そしんの親族のような

 振る舞いをするものだな。


 先にはおごりたれど、

 後にはうやうやしい。


 戦国の世の蘇秦は

 その意を全うできずにいた時には

 親族から軽んじられていたが、

 王らの支持を取り付け、

 大臣にまで昇進したら、

 その親族がへりくだってきた。


 その時の蘇秦の気持ちが、

 ようやくわかったような気がする。


 阿羯あかつ、お前にも常に

 身を修めていてほしいものなのだが」



また幼き謝玄、紫のにおい袋が大好きで、

いつも肌身離さず持っていた。

その大きさは、

手のひらをすっぽりと覆うほど。


謝安さま、謝玄のその行いを

良く思ってはいなかったが、

いたずらに叱るのもどうかと思い、

賭けを持ちかけた。


いかさまを仕込み、

絶対に勝てるよう仕向けた

その賭けで謝安さま、

見事におい袋を取り上げる。


そしてすぐさま、それを焼いてしまった。




謝遏夏月嘗仰臥,謝公清晨卒來,不暇著衣,跣出屋外,方躡履問訊。公曰:「汝可謂前倨而後恭。」

謝遏は夏の月に嘗て仰ぎて臥す。謝公の清き晨に卒來せるに、衣を著く暇なく、跣にて屋外に出で、方に履を躡み問訊す。公は曰く:「汝、前に倨し後に恭しと謂うべし」と。

(排調55)


謝遏年少時,好箸紫羅香囊,垂覆手。太傅患之,而不欲傷其意,乃譎與賭,得即燒之。

謝遏の年少なる時、紫羅の香囊を箸くを好み、手を覆うに垂んとす。太傅は之を患えど、其の意を傷むを欲さず、乃ち譎して賭し、得たらば即ち之を燒く。

(假譎14)




割と幼い頃には謝安さまの手を焼いていたらしい謝玄くんが、まさかあんなどでかい武功を建てる大将軍になるなんてねぇ……(ほろり)


匂い袋については、謝玄、それを持っていないと落ち着かない、ライナスの毛布的なものなんじゃないか、というお話を頂戴しました。そうすると、結構薄汚れてたりとかもしたのかな。

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