謝安58 七言詩     

王徽之おうきし謝安しゃあんさまの元を訪問する。

この時謝安さま、ふと

気になったことがあったため、

王徽之に質問した。


「そう言えば、ここ最近では

 七言詩、というものが

 流行り始めているそうだな。


 これは、どのような感じの

 ものなのだろうか?」


この頃の詩には、

あまり七語で一句、

と言うスタイルは

確立されていなかったようなのだ。


王徽之、謝安さまの顔を

しばし見てから、おもむろに歌う。


「昂昂若千里之駒

 汎汎若水中之鳧」


楚辞そじ卜居ぼくきょよりの引用である。


壮健な馬として

千里を駆け回るのが良いか、

それとも水面に遊ぶカモとして、

ぷかぷか気軽に

浮いていた方がよいのか。


謝安さま、本当は

引きこもってたいんじゃないですか?


チクリと刺してくる

王徽之であったとさ。




王子猷詣謝公,謝曰:「云何七言詩?」子猷承問,荅曰:「昂昂若千里之駒,汎汎若水中之鳧。」


王子猷は謝公に詣で、謝は曰く:「七言詩とは何をか云わんや?」と。子猷は問いを承け、荅えて曰く:「昂昂たるは千里の駒が若し、汎汎たるは水中の鳧が若し」と。


(排調45)




楚辞卜居

ちなみに周辺を切り出すとこうなる。


 寧昂昂若千里之駒乎

 將氾氾若水中之鳧乎

 與波上下 偸以全吾躯乎


 寧與騏驥亢軛乎

 將隨駑馬之跡乎


いやよく即興でこの切り出しできますね!? しかもきっちり「ク」と「フ」で韻まで踏んでます。七語詩としての説明として成立してんのかは微妙だけど、少なくとも「七文字の詩」としての体裁はきっちり踏襲してる。奇行ばっかり目立つ王徽之ですけど、やっぱりとんでもない文人だったんだなぁ、というのは実感するのです。


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