謝安54 うっかり☆謝万2

謝安しゃあんさま、謝万しゃまんと共に

会稽かいけいから船でお出掛け。

途中呉郡ごぐんに差し掛かる。


呉郡には王恬おうてんがいる。

王導おうどうさまの次男。

「もうちょい才能があればなぁ……」

と、王導さまに言われちゃってる子だ。


謝万、王恬様にお目通りしたい!

と熱望する。

だが謝安さまはつれない。


「あの方は歓迎なぞしてはくれまい。

 やめておけ、失望するだけだぞ」


えーなんだよう兄ちゃん、

行きたいったら行きたいの!

ワガママ坊主か。


と言って、謝安さまとしても

特に王恬と会いたい気にもなれない。

行くなら勝手に一人で行けば?

と突き放す。


こうして単独で

王恬の家に向かった謝万。

家の前の庭園に設けられていた

座には通された。

しかもほんの少し待っただけで

王恬も出てくる。


なんだよ歓迎されてんじゃん!

そう謝万が喜ぼうとしたのも束の間。


王恬、沐浴のあと、

特に髪も結い上げないままで出てきた。


しかも着座している謝万と

同じ目線の高さに合わせる気もない。

髪を梳かしながら、椅子に腰かけ、

傲然と謝万を見下すのだ。


しかも、特に歓迎の意を

示そうともしない。


しょんぼりと王恬の屋敷を

後にする謝万。


船のほうに戻ってきたところで、

謝安さまの姿を見出した謝万、

なんだよあの偉ぶった奴!

そう、不満をぶつけた。


謝安、ため息をついて答える。


「だから言ったろうに。

 あの坊ちゃんが

 歓迎してくれるはずもないだろう、と」





謝公嘗與謝萬共出西,過吳郡。阿萬欲相與共萃王恬許,太傅云:「恐伊不必酬汝,意不足爾!」萬猶苦要,太傅堅不回,萬乃獨往。坐少時,王便入門內,謝殊有欣色,以為厚待已。良久,乃沐頭散髮而出,亦不坐,仍據胡床,在中庭曬頭,神氣傲邁,了無相酬對意。謝於是乃還。未至船,逆呼太傅。安曰:「阿螭不作爾!」


謝公は嘗て謝萬と共に西に出で、吳郡を過ぐ。阿萬は相い共に王恬が許に萃まらんと欲せど、太傅は云えらく:「恐るらく、伊れは必ずや汝に酬いず、爾るべくに足らざるを意えんか!」と。萬は猶おも苦はだ要め、太傅は回らざるを堅くせば、萬は乃ち獨りにて往く。坐して少しきの時にして、王は便ち門內に入る。謝は殊に欣びの色を有し、以て己を厚く待すを為す。良や久しく、乃ち沐頭散髮して出で、亦た坐せず、仍ち胡床に據し、庭中に在して頭を曬し、神氣の傲なること邁はだしく、了には相い酬對せる意無し。謝は是れに於いて乃ち還る。未だ船に至らずして、逆らいて太傅を呼ぶ。安は曰く:「阿螭は爾るるを作さじ!」と。


(簡傲12)




阮裕げんゆうの話とかこの話とか、謝万を当て馬にして謝鯤しゃこん謝尚しゃしょうで一気に台頭してきた陳郡謝氏に、どんな目が向けられてたか、みたいなものが示されている感じですね。


つーか謝万の扱いがひどい。

本当にひどい。笑えてきた。

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