謝安20 嵐の舟遊び   

謝安しゃあんさまが東山とうざん

悠々と遊んで暮らしていた頃のこと。

孫綽そんしゃくたちと一緒に海に船で漕ぎ出した。


やがて風が強くなり、波が立ち始める。


孫綽や王羲之おうぎしと言った人たちは

転覆を恐れ、そわそわし出す。

「そ、そろそろ戻らないか?」

と言い出す者もいた。


が、謝安さま、むしろ波風に

風流を感じているもよう。

返答せず、何かを吟じていらっしゃる。


それを見て、他の者者らも感心。

よっしゃ、じゃもうちょい行ったろ!

そんなノリになった。


のだけれども、波風は

いよいよ激しくなってくる。

みんな立ち上がり、

やべえよ、やばない? と言い出した。


すると、謝安さまが言う。


「ふうむ、ではそろそろ帰ろうか」


みんなこの言葉を聞き、

大急ぎで引き返した。


この件で謝安さまが示した、

何事にも動じないさまを見て、

同行した人たちは、

この国を鎮め、リードしていくのは

この男以外にいない、と

悟ったのだった。




謝太傅盤桓東山時,與孫興公諸人汎海戲。風起浪涌,孫、王諸人色並遽,便唱使還。太傅神情方王,吟嘯不言。舟人以公貌閑意說,猶去不止。既風轉急,浪猛,諸人皆諠動不坐。公徐云:「如此,將無歸!」眾人即承響而回。於是審其量,足以鎮安朝野。


謝太傅の東山に盤桓せる時、孫興公ら諸人と汎海に戲ぶ。風起き浪涌き、孫、王ら諸人の色は並べて遽たれば、便ち還ぜしめんと唱う。太傅が神情は方に王んにして、吟嘯し言せず。舟人は公の貌の閑意なるを以て說び、猶お去き止まらず。既にして風は急に轉じ、浪は猛く、諸人は皆な諠動し坐さず。公は徐ろに云えらく:「此くの如き、將た歸す無からんや!」と。眾人は即ち承響し回る。是に於いて其の量、以て朝野を鎮安せるに足るを審らかとす。


(雅量28)




無駄にかっけえ謝安さまモード。王戎の牛、王珣の馬、にも通じるものを感じられます。いずれにしても「こいつ大物だぜ」アピールに用いられていますね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る