謝安（しゃあん）さま、秘書官の陸退（りくたい）に質問する。

「張憑（ちょうひょう）は母親については弔辞を記したが、

　父親については記さなかった。

　これは、どういうことなのだろうな」

陸退は答える。

「士大夫の美徳は、その実績が示します。

　しかしご婦人がたの美徳は、

　ほぼ家内で完結してしまう。

　そのため弔辞にて、

　母上の素晴らしさを表明したのです」

謝太傅問主簿陸退「張憑何以作母誄，而不作父誄？」退答曰：「故當是丈夫之德，表於事行；婦人之美，非誄不顯。」

謝太傅は主簿の陸退に問うらく「張憑は何をか以て母の誄を作し、父の誄を作さざるか？」と。退は答えて曰く：「故より當に是れ丈夫の德、事を行うに表れ、婦人の美、誄に非ざれば顯れざりき。」

（文學82）

張憑

呉郡張氏。清談の腕一本でのし上がってる。ちなみにこのひとの話では祖父が「わしの息子は張憑を生んだ、その一点を以てわしは息子に敗れた」って言ってます。親父殿の才覚がどんな感じだったのかを察せられる事案でございますね。

陸退

陸遜（りくそん）の弟のひ孫。呉郡陸氏も盛族だけどこれ、いまとなっちゃ陳郡謝氏に盛り立ててもえらえないといけない、みたいなものがなしさはありますね。

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