謝安14 屋下屋を架す  

庾闡ゆせんが「楊都賦ようとふ」を書いた。

出来上がったものを、庾亮ゆりょうさまに見せる。

すると庾亮さま、親族のよしみでもって

これを大々的に宣伝した。


「これは二京賦を三京賦に、

 三都賦を四都賦にするレベルの作品だ」


つまり

 班固はんこ両都賦りょうとふ

 張衡ちょうこう両京賦りょうきょうふ

 左思さし三都賦さんとふ

に並ぶ作品だ、と言い切ったのだ。


なので建康けんこうの人びとはこぞって

楊州賦を書き写した。

それによって紙の値段が

跳ね上がるほどであったという。


さてそんな楊州賦を、

謝安しゃあんさまが読んだ。


そして、こうコメントしている。


「そう言うレベルではなかろう。

 これでは屋下屋を架す、にしかならん。


 折りにつけ先人の名作にあやかるだけで、

 あまりにも浅はか、というしかないな」




庾仲初作揚都賦成,以呈庾亮。亮以親族之懷,大為其名價云:「可三二京,四三都。」於此人人競寫,都下紙為之貴。謝太傅云:「不得爾。此是屋下架屋耳,事事擬學,而不免儉狹。」


庾仲初は揚都賦を作す。成れるを以て庾亮に呈す。亮は親族の懷みを以て大いに其の名を價するを為して云えらく:「二京を三、三都を四とすべし」と。此に於いて人人は競いて寫し、都下の紙は之を貴と為す。謝太傅は云えらく:「爾るを得べからず。此れや是れ屋下に屋を架すのみ、事事につけ學を擬せど、儉狹を免れじ」と。


(文學79)




屋上屋、じゃなくて屋下屋を架す、かー。これ、日本と中国の「屋根」のありようを考えさせてくれそうですね。

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