謝安6  柳絮の才    

謝安しゃあんさま、寒々しく雪の降るある日、

内内で一族だけの集会を開いた。


そこで若き少年少女らと、

文学について語る。


そのような折、俄かに雪が激しくなる。

ほう、これはこれは。

ふと思い立ち、謝安さま、聞いた。


「白雪紛紛何所

  ひらひら舞う、この白雪。

  君たちには、どのように見える?」


真っ先に応えたのは謝拠しゃきょの長男、謝朗しゃろう


「撒鹽空中差可

  空中に塩を撒いたのには、

  少し似ているかもしれません」


するとそれを聞き、

ひとりの少女が切り返す。


「未若柳絮因風

  舞い散る柳の実を思い起こさせます。

  早く春になってほしいものですわ」


謝安さま、彼女の返答に大喜び。


彼女こそが謝奕しゃえきの娘、謝玄しゃげんの姉。

後に王羲之おうぎしの息子、王凝之おうぎょうしに嫁ぐ、

謝道蘊しゃどううんである。




謝太傅寒雪日、內集與兒女、講論文義。俄而雪驟。公欣然曰:「白雪紛紛、何所似?」兄子胡兒曰:「撒鹽空中、差可擬。」兄女曰:「未若柳絮、因風起。」公大笑樂。即公大兄無奕女、左將軍王凝之妻也。


謝太傅は寒雪の日に內集し、兒女と文義を講論す。俄にして雪驟す。公は欣然として曰く「白雪紛紛たり。何の似たる所たりや?」と。兄の子の胡兒は曰く「鹽を空中に撒きたるに差や擬さるべし」と。兄の女は曰く「未だ柳絮の風に因りて起こりたるには若かず」と。公は大いに笑いて樂しむ。即ち公の大兄、無奕の女にして左將軍の王凝之が妻なり。


(言語71)




謝朗

目立たないパパよりは目立ってる。謝韶しゃしょう謝淵しゃえん、そして謝玄しゃげんと共に当時の謝氏の子供たちの中では優れた才能を褒め称えられていたそうである。


謝道蘊

夫のことをクソ野郎扱いしたり夫殺した反乱軍前にして全く怯まなかったりと、烈女こええをつくづく実感させてくれるお方。井上由美子いのうえゆみこ氏が小説に「柳絮」にて描いてくださってます。

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