桓温53 東山に生える遠志

謝安しゃあんさまは会稽かいけい近くの山、

東山とうざんに引き籠っていたかった。

いたかったのだ。


けど中央からの招聘が

あまりにも激しくなってきたために、

しぶしぶ桓温かんおんさまの副官として

出仕することになった。


謝安さまが出仕するようになって

間もなくのこと、

桓温さまに薬草を送る者がいた。


いろんな種類の薬草が入る中、

桓温さまの目に留まったのは、

遠志おんじ」という薬草。

現在はイトヒメハギと呼ばれている。


おっ、これはこれは。

桓温さま、ニヤリと遠志を取り出した。

あっ知ってる、

なんか企んでるやつですよこれは。


「謝安。遠志は、知っての通り

 小草、とも呼ばれているな。

 不思議だな、なぜ一つの薬草に、

 二つの名前がついているのかな」


あっこういうパターンなんですね。

謝安さま、もちろん答えはわかる。

が、そいつは自分の口からでは、

到底言えない。


ここでしゃしゃってくるのが

同席していた郝隆かくりゅうである。


「いやあ、そんなの簡単でしょう!

 山間でひっそりと生えていれば遠志、

 さぞ霊験あらたかとも見られましょうが、

 しかし一旦出てきてしまえば、

 それはただのしょぼい草です!」


そう、散々東山で隠遁を決めていた

謝安さまに対する当てこすりなのだ。


こんなん自分で答えたら

二重の辱めじゃないですか、

縮こまりあがる謝安さま。


この様子を見て、

桓温さまもご満悦そうに笑う。


「郝隆、悪くない、悪くないぞ。

 実に当を得ている、と言えような」




謝公始有東山之志。後嚴命屢臻、勢不獲已、始就桓公司馬。于時人有餉桓公。藥草中有遠志、公取以問謝:「此藥又名小草、何一物而有二稱?」謝未即答。時郝隆在坐、應聲答曰:「此甚易解處。則為遠志出則為小草。」謝甚有愧色。桓公目謝而笑曰:「郝參軍此過、乃不惡、亦極有會!」


謝公は始め東山の志有り。後に嚴命の屢しば臻れるに、勢い已むを獲ず、始めて桓公が司馬に就く。時に桓公に藥草を餉れる人有り。中に遠志を有す。公は取り、以て謝に問うらく「此の藥は又た『小草』と名す。何ぞ一物をして二稱有らんや?」と。謝は未だ即答せず。時に郝隆の坐に在れるに、聲に應じて答えて曰く「此れ甚だ解くは易かりき。處するに則ち遠志と為し、出ずるに則ち小草と為す」と。謝に甚だ愧ずる色有り。桓公は謝を目し、笑いて曰く「郝參軍の此の過は、乃ち惡しからず、亦た極めて會有り」と。


(排調32)




郝隆

彼にはこのガイドラインを差し上げたい。

http://www.ph.emb-japan.go.jp/files/000335189.pdf

より、

「フィリピンにおいては,相手が誰であっても,公衆の面前で罵倒し,恥をかかせるといった行為はタブーとされています。たとえ自分の家族に対する暴力的な言動であっても,周囲からいやがられます。」


フィリピンじゃないけどね、危ないよね、桓温さまも郝隆さんも。ちなみに郝隆さんの事跡って、マジでこれと、次に載せる話しか残ってません。謝安さまにハブられたんじゃねえのこれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る