桓温34 羅含さんがゆく 

荊州けいしゅう刺史である桓温かんおんさまの部下にして、

その任地の諸長官たちを

視察する役目を負っていた、羅含らごん


さてこの羅含は、荊州の一郡である

江夏こうかを治める鎮西将軍ちんざいしょうぐん謝尚しゃしょうの統治を

視察することになった。


が、羅含、謝尚の元に到着すると、

特に統治内容についての質問はしない。

数日酒宴を楽しんだのち、帰還した。


帰ってきた羅含に、桓温さまが聞く。

「謝尚の統治はどうだった?」


すると羅含は答えた。

「よく分かりませんでした。

 あまり調べませんでしたので」


ファッ!?

桓温さま、詰め寄ろうとする。


が、羅含、言葉を継ぐ。

「お伺いしたいのですが、

 公は謝尚について

 どのような人物とお考えですか?」


「あの人より優れた人なぞ、

 そうはおらんだろう。

 無論、この俺も含めてな」


ふむ、と羅含、頷く。


「公以上のお方であるならば、

 その行いに過ちなど

 ございますでしょうか?


 私自身、謝尚様を素晴らしい方と

 思っておりました。

 なので、何も問わず戻って参りました」


あ、うーん? そう?

みごとに丸め込まれた桓温さま、

結局羅含のことを

責めませんでした、とさ。



さてこの羅含の人となりについては、

こんなエピソードもある。


ある時、人さまの家に遊びに行っていた。

そこには別の客もいる。

なので家の主人、羅含とその客を

引き合わせようとした。


すると羅含は言う。


「知り合いならもうたくさんいます。

 これ以上煩わせないでください」


そ、そう……。




羅君章為桓宣武從事。謝鎮西作江夏、往檢校之。羅既至、初不問郡事。徑就謝、數日飲酒、而還。桓公問:「有何事?」君章云:「不審。公謂謝尚何似人?」桓公曰:「仁祖、是勝我許人。」君章云:「豈有勝公人、而行非者?故一無所問。」桓公奇其意、而不責也。

羅君章は桓宣武の從事と為る。謝鎮西の江夏に作さるに、往きて之を檢校す。羅の既に至るに、初にも郡の事を問わず、徑ちに謝に就きて、數日飲酒し、還ず。桓公は問うらく「何ぞ事有らんや?」と。君章は云えらく「審ぜざるなり。公は謝尚を何ぞの人に似たると謂わんか?」と。桓公は曰く「仁祖は是れ我れ許りの人に勝るなり」と。君章は云えらく「豈に公に勝れる人に、行いの非たる有らんや? 故に一にも問う所無かりき」と。桓公は其の意を奇とし、責めざるなり。

(規箴19)


羅君章曾在人家、主人令與坐上客共語。答曰:「相識已多。不煩復爾。」

羅君章の曾て人が家に在りたるに、主人は令し坐上の客と共に語らしめんとす。答えて曰く:「相い識るの已にして多かれば、復た爾りたるを煩ぜざらんか」と。

(方正56)




羅含

いやこいつの首飛ばせよ。実にゴキゲンな人品を決めていらっしゃる。

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