桓温35 郗愔左遷    

郗鑒ちかんさまの息子にして郗超ちちょうの父親、郗愔ちいん

父親の跡を継ぎ、北府ほくふを継いだが、

基本的にはそれほど際立った

才覚があった人ではない。


おりしも北方よりは前燕ぜんえん慕容儁ぼようしゅんからの

圧力が高まっているところ。

北の守りの要を彼に守らせるのは、

桓温かんおんさまにとっては、とても心もとない。

どうにかアイツをぶっこ抜けないものか、

常々桓温さまは考えていた。


だが郗愔本人は、

この辺りの機微を読むのに疎い。

ある時郗愔、桓温さまに宛てて

手紙をしたためる。その内容は、


「共に陛下を盛り立てて北伐を遂げ、

 中原を奪還いたしましょう」


というものだった。


さて、このとき郗超は

桓温さまの府に勤務していた。

郗愔からの手紙が届いたと聞くと、

手紙を奪い取り、内容を確認する。


そして、手紙をずたずたに引き裂くと、

新しく手紙を書き直す。その内容は


「年のせいか病がちとなり、

 人前に出るのも大変です。

 出来ればのどかな地にて

 療養したく思っております」


というものだった。


これを受け取った桓温さま、大喜び。

すぐさま郗愔転出の表を奏じ、

郗愔を会稽エリアの司令に転任させた。


つまり前線から引きはがし、

軍務的な意味で言うところの

僻地に飛ばしてしまうのだった。 




郗司空在北府。桓宣武惡其居兵權。郗於事機素暗、遣牋、詣桓:「方欲共獎王室、脩復園陵。」世子嘉賓出行於道上、聞信、至急取牋。視竟、寸寸毀裂、便回還、更作牋、自陳:「老病、不堪人間。欲乞閑地、自養。」宣武得牋、大喜。即詔、轉公督五郡會稽太守。


郗司空は北府に在り。桓宣武は其の兵權に居せるを惡む。郗は事機に於いて素より暗し。牋を遣わせ桓に詣でしめ「方に共に王室を獎め、園陵を脩復せんと欲す」と。世子の嘉賓は道上に出でて行き、信の至れるを聞くに、急ぎ牋を取る。視竟えるに、寸寸に毀裂し、便ち回りて還り、更に牋を作し自ら陳ぶらく「老病にて人間に堪えず。閑地にて自らをして養わしむを乞わんと欲す」と。宣武は牋を得、大いに喜びて、即ち詔し、公をして督五郡、會稽太守に轉ぜしむ。


(捷悟6)




郗超が親父をはめたとも見れるし、親父を守ったとも見れる。まぁこの辺って郗愔がどうこうと言うより桓温郗超がすごすぎたってことなんでしょうけどねー。一代に冠たる才人に囲まれてしまうと大変ですのう。

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