桓温5  画聖ギャン泣きす

桓温かんおんさまが亡くなって後のこと。

顧愷之こがいし、桓温さまの墓を参拝し、

詩を詠んだ。


「大いなる山が崩れ、

 広き海が干上がった。

 鳥や魚は、居所を失ってしまった」


「崩」とか交えてくるのが、

なかなかに厄い。

桓温さまの簒奪謀議に

賛同していた、ってとられても

おかしくないですよ顧愷之さん。


ある人が、顧愷之に問う。


「あなたが桓温を

 大いに頼りとしていたのは、

 誰もが知っているところです。

 葬儀では、さぞ盛大な

 哭礼をなさったのでしょうね」


そんなに桓温好きなのかよお前、

なにもしかしてお前も共犯?

的ニュアンスがこもった問いである。


顧愷之は答える。


「すごかったよ。

 鼻から漏れるのは荒涼とした北風、

 目からは堤防が決壊した濁流。

 だから、その泣き声は

 雷鳴が山を打ち崩すかのようだったし、

 その涙の滂沱たるや、

 黄河こうがが海に注ぎ込むかのようだった」




顧長康拜桓宣武墓、作詩云:「山崩溟海竭。魚鳥將何依?」人問之曰:「卿憑重桓乃爾。哭之狀、其可見乎?」顧曰:「鼻如廣莫長風、眼如懸河決溜。」或曰:「聲如震雷破山、淚如傾河注海。」


顧長康の桓宣武の墓を拜せるに、詩を作して云えらく「山は崩れ、溟海は竭く。魚鳥は將に何にか依らんか?」と。人は之に問うて曰く「卿の桓に重に憑せること乃ち爾れり。哭せるの狀、其れ見るべけんや?」と。顧は曰く「鼻は廣莫の長風の如く、眼は懸河の溜の決せるが如し」と。或いは曰く「聲は震雷の山を破るが如く、淚は河を傾け海に注ぐるが如し」と。


(言語95)




知るかボケ、悲しいもんは悲しいんじゃ、

ってなもんですな。

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