桓温2  忠臣か、不孝か 

桓温かんおんさま、庾翼ゆよくより西府せいふ軍を引き受ける。

その手始めに、手勢を率いての

しょく征伐を敢行。

急峻な山道をたどり、

いよいよ蜀入りせん、

というときのことである。


左右は頂上の見えない断崖に挟まれ、

下で荒れ狂う長江ちょうこうの流れは

波立ち、渦巻いている。


後漢ごかん王陽おうようは知っているか?」


桓温さま、周囲の者に聞く。


「この地に差し掛かった王陽は、

 我が身を損ない、親から引き継いだ

 自家の血統を絶やすことを恐れ、

 引き返したという。


 忠臣ならば、蜀入りは果たさねばならん。

 だがそのためには、

 我が身を損なう恐れのある、

 不孝の地へと身を躍らせねばならん。


 全く、ままならんな」




桓公入峽。絕壁天懸、騰波迅急。迺嘆曰:「既為忠臣、不得為孝子、如何?」


桓公は峽に入らんとす。絕壁は天に懸り、騰波は迅急なり。迺ち嘆じて曰く「既にして忠臣為れば、孝子為り得ざるとは如何?」と。


(言語58)




王陽

漢書巻七十六王尊おうそん伝をインプットして

初めて意味が通る。こんな感じの話。



王尊が益州刺史えきしゅうししになった。


ところで以前に琅邪ろうやの王陽が

益州刺史になったのだが、

途轍もなく危険なルートとして知られる

益州内の邛郲きょうらいにある

九折阪くせつはんに差し掛かると、


「先祖からもらったこの大事な体を、

 なんでこんなヤバい所に

 投げ込まにゃならんのだ!」


と仮病を使って逃げた。


王尊がその場所に差し掛かると、

御者や侍従が怖気づいて言う。


「ここ、王陽さまが

 恐れた道ではございませんか?」


「そ、そうだな」


その様子を見て、

王尊が叱咤を飛ばす。


「いいから行け!

 王陽は孝行を為したかもしれん、

 だがこの王尊、忠臣であるのだ!」

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