王導46 石頭よりの風  

王敦おうとんの乱以降、

庾亮ゆりょうの権勢がどんどん大きくなり、

王導おうどうさまの立場を揺らがせとしていた。


さて庾亮は石頭せきとう城、

王導さまは城にいることが多い。

この二つの城は東西に隣り合っている。

石頭が西、冶が東だ。


ある時強い西風が吹き、

砂埃が巻き起こった。


つまり王導さまから見ると、

石頭城から噴いた風により

砂埃を叩きつけられている感じになる。


なので、王導さまは言う。


「庾亮のやつ、

 わしを風で汚しおるか」




庾公權重、足傾王公。庾在石頭、王在冶城。坐大風揚塵、王以扇拂塵曰:「元規塵汙人。」


庾公の權の重かりせば、王公を傾くに足る。庾の石頭に在り、王の冶城に坐せる在れるに、大いに風の塵を揚げたれば、王は扇を以て塵を拂いて曰く「元規が塵、人を汙さん」と。


(輕詆4)




「石頭に在す」という言葉の扱いは難しい。蘇峻そしゅんの乱がおこる前までの庾亮のメイン治所は石頭であったようだが、一方で王敦や蘇峻など「反乱者が建康けんこうに乗り込んでくる」の隠喩としてもちょくちょく機能している。


また「庾公の権が重く」なるのだって、王敦の乱後、蘇峻の乱後でそれぞれ意味合いが違うが、どちらにでも使える。


深読みはできるけど、個人的には庾亮をからかう意図で言った、という方向であったらいいなあ、と思う。世説新語の王導さま、結構ウカツだし。

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