王導45 目の彫りの深さ 

西域よりやってきた僧、康僧淵こうそうえん


目の彫りがめっちゃ深く、

鼻もめっちゃ高い。


この異相を、

王導おうどうさまは良くからかっていた。


だが康僧淵はさらっと返す。


「鼻は山、目は渓流に譬えられよう。

 低き山は霊峰とは呼べず、

 浅き渓流は濁りやすい。

 お分かりかね、鼻の低いお方?」




康僧淵目深而鼻高。王丞相每調之。僧淵曰:「鼻者面之山、目者面之淵。山不高則不靈、淵不深則不清。」


康僧淵は目深くして鼻高し。王丞相は每に之を調う。僧淵は曰く「鼻は面の山、目は面の淵なり。山高からざれば則ち靈ならず、淵深からざれば則ち清からず」と。


(排調21)




康僧淵

「弁が立つ、あとカッコイイ」と言う評です。ちなみに西方人っぽい顔つきについてのエピソードでは世説新語の外にも面白いものがあるので、こちらも紹介しておきますね。晋書106巻、石季龍せききりゅう石虎せきこ)伝より、石宣せきせんのお話。



後趙こうちょうの幕臣で、

やはり目の彫りが深い

孫珍そんちんというひとがいた。


目を患ってしまい難儀していたので、

なにかいい治療法はないか、と

同僚の崔約さいやくに聞く。


すると崔約、普段から

孫珍のことを舐め腐っていたため、

ここでもやはりからかう。


「目を溺れさせれば治るであろうよ」

「目を? どのようにして?」

「卿の目の彫りは深い。

 ここに水を溜めれば、

 すぐに溺れさせられよう」


このからかいに、孫珍激怒。

ある時石虎さまの息子、石宣さまに

崔約の野郎がこんなこと言ってました、

と告げ口した。


けつ族、即ち西方系の異民族である

石虎さまの一族は、目の彫りが深い。

中でも、石宣さまはひときわ深かった。


石宣さまは大激怒。

崔約の家族を皆殺しにした。




このエピソードに出てくる「崔約」って人、あんまり詳しく書かれてないんですが、この人自身が侍中と言う高位にまで上がっていることを考えると、戦国時代以来のド名門「清河崔氏」である可能性が高いんですよね。


そうするとド名門漢人がうっかり成りあがりの異民族をからかってぶっ殺された、という、なかなかに味わい深いエピソードともなります。

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