王導39 祖逖強盗団   

祖逖そてきと言えば公私ともに質素倹約の人、

という事で建康けんこうでも有名だった。


の、だが。


ある時、王導おうどうさまと庾亮ゆりょうさまが連れ立って

祖逖の元に訪れると、

きれいな着物が山積してるわ、

珍しい宝がずらりと並んでいるわ。


「な、なんだこりゃ……」


呆然と宝の山を見る王導さまらに向け、

祖逖はあっさりと言ってのけた。


「なに、ちょっくら南塘なんとうまで、な」


南塘と言えば、建康の南の外れ。

強盗どもが根城を構えている辺りだ。


祖逖は子飼いの荒くれどもを連れて、

盛大に太鼓を叩かせ、この地にいる

荒くれどもをぶっ叩いては、

泥棒どもから強盗をしていた。


強盗働きは、当然、犯罪。

とは言え、盗んでいる相手が相手だ。


結局祖逖のこの行いは、

おとがめなし、という事になった。




祖車騎過江時、公私儉薄、無好服玩。王庾諸公共就祖、忽見裘袍重疊、珍飾盈列。諸公怪問之、祖曰:「昨夜、復南塘一出。」祖于時、恆自使健兒鼓、行劫鈔。在事之人亦容、而不問。


祖車騎の江を過れる時、公私に儉薄にして、服玩に好める無し。王庾ら諸公の祖と共に就けるに、忽ち裘袍の重疊にして、珍飾の盈列さるを見る。諸公は怪しみ、之を問う。祖は曰く「昨夜、復た南塘に一に出でたり」と。祖は時にして、恆に自ら健兒をして鼓せしめ、行きて劫鈔せしむ。事に在れる人も亦た容し、問わず。


(任誕23)




「南塘」に対するニュアンスの持たせ方で祖逖と言う人のキキチガイ度が変わってくるお話。劉孝標りゅうこうひょうの注によると「しばしば強盗働きがあったところ」という話である。なので、だいたいの訳では「祖逖が強盗働きの犯人だったんですよ!」扱いになっている。


……んだが、そんな頻繁に強盗働きが起こるよーなところに豪華な着物だ珍宝だもちこむカモネギなんざいるか? という部分がどうにも引っ掛かり、これらの訳にいまいち首肯できない。


……とは書きたいのだが、ここに関する最終的な判断は祖逖の他の記事を読んでから、になりそうですね。世説新語で重要なのは、いつでも「劉義慶りゅうぎけいがどういうキャラとして扱いたいか」だ。


任誕と言えば竹林七賢がごろごろ転がるチャプター。ギリギリセウトな世界の人たちが並んでいるはず。さあ、このエピソードに劉義慶はどんな含みを持たせたのだろう。

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