孝武7  娘婿探し    

孝武こうぶさま、娘婿を王珣おうしゅんに探させる。


王敦おうとん桓温かんおんと言った破格の英雄は

 そうそう現れるものでもないな。

 まぁ、現れたら現れたで人の家のことに

 あれこれ口出しをしてきて

 鬱陶しそうではあるが。


 やはり劉惔りゅうたん王献之おうけんしのごときが

 最も適しているのであろうな」


そこそこの人材、と言う仰せに、

王珣が推薦したのは謝混しゃこんだった。

謝安しゃあんの孫で、晋の軍権を担う謝琰しゃえんの息子。


その評価は劉惔ほどではないが、

王献之とは張る、と言ったもの。


この提案を孝武さまが気に入り、

婚約の話が進む。


一方袁喬えんきょうの孫袁山松えんさんしょうは、この話を知らず、

謝混に自分の娘を嫁がせようとした。


すると、王珣が言う。


「きみ、天子のお手付きに

 手を出すものではないよ」




孝武屬王珣求女壻曰:「王敦桓溫磊砢之流、既不可復得。且小如意、亦好豫人家事。酷非所。須正如真長、子敬、比最佳。」珣舉謝混。後袁山松欲擬謝婚。王曰:「卿莫近禁臠」


孝武は王珣に屬して女壻を求めさしめて曰く「王敦や桓溫なる磊砢の流は既にして復た得べからざるべし。且つ小しくも意に如かれば、亦た人の家の事に好みて豫かる。酷だ須うる所に非ず。正に真長や子敬、比の如きを最も佳しとす」と。珣は謝混を舉ぐ。後に袁山松は謝に婚を擬せんと欲す。王は曰く「卿は禁臠に近づく莫れ」と。


(排調60)




王献之

書聖王羲之おうぎしの五男。兄弟の中では最も筆力が高く、王羲之と並んで書人ランクトップと称される。王羲之の落書きをひっそり消して書き直したら「ん、これを書いた時の私はずいぶん酔っぱらっていたようだな。私の字にしてはずいぶん下手だ」などと言われて凹まされてもいる。

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