明帝11 斥候明帝さま  

王敦おうとんは反乱軍を率いて姑孰こじゅくに駐屯。


対する明帝めいていさま、英明にして

司令官としての才覚も抜群。

しかし、やっぱり王敦軍は怖い。


なのでおん自ら偵察にお出になる……

っておおおぉおおおい!!!??

止めろよ家臣ども!!!


鎧下だけを着て、しょく産の馬に乗る。

手には金の馬鞭。

なんですかその豪奢ないでたち。


姑孰から数十里ほどの場所に、

老婆の営む飲食店があった。

明帝さま、この店に立ち寄り、一休み。

そして食事をとると、この老婆に言う。


「十里先にいる王敦は、

 とんでもない悪者でしてね。

 奴の猜疑心により、

 多くの罪なき忠臣が命を落としました。

 これにより朝廷は王敦を恐れております。

 また、神々も憂慮しておりましょう。


 そこで私は、我が身に鞭打ち、

 王敦めを探るため、

 日夜となくここまでやって参りました。


 これから、王敦めの陣中を

 偵察してまいります。


 もしかしたら、この偵察が

 バレるかもしれません。

 そうなってしまったら一大事。


 ご姥よ、もし私が追っ手に

 迫られることが御座いましたら、

 どうか匿っては下さいませんでしょうか」


そう言って、金の馬鞭を老婆に手渡す。


さあ、そして明帝さま、

王敦の陣中に潜り込み、状況を見て回るよ。

つーか、どんな肝っ玉ですかあなた。


さて偵察が終わった。明帝さま脱出。


その後、王敦軍の人間は思った。


「何さっきの奴。やばない?」


一方王敦。

この時寝てたが、妙に胸騒ぎがする。

起きて、陣中の者に言う。


「おい、鮮卑の黄髭が来ていただろう」


明帝さま、母親が鮮卑系だったらしい。

なのでその外見には、

多分に鮮卑っぽさがあったという。


あぁ、いましたよ。陣中の者が報告する。


「ばっかもーん! そいつが明帝だ!」


慌てて明帝さまを追いかける王敦軍たち。

しかし見つからない。

やがて、例の老婆の店に差し掛かる。


「婆さん! この辺りを、黄髭の男が

 馬で通過していかなかったか!?」


おばあさん、答える。


「そうさのう。結構前には

 そんな方もおらしゃったような。

 ただ、相当遠くに行ってると思いますぞ」


まぁ店の中にいるんですけどね。


王敦軍、こりゃもう追っても無駄だと

諦め、撤収した。




王大將軍既為逆、頓軍姑孰、晉明帝以英武之才、猶相猜憚乃著。戎服騎巴賨馬齎一金馬鞭、陰察軍形勢。未至十餘里、有一客姥居店賣食。帝過愒之謂姥曰:「王敦舉兵圖逆、猜害忠良。朝廷駭懼、社稷是憂。故劬勞、晨夕用相覘察。恐形迹危露、或致狼狽。追迫之日、姥其匿之。」便與客姥馬鞭而去。行敦營匝而出。軍士覺曰:「此非常人也。」敦臥、心動曰:「此必黃鬚鮮卑奴來。」命騎追之、已覺多許里。追士因問向姥:「不見一黃鬚人騎馬度此邪?」姥曰:「去已久矣。不可復及。」於是騎人息意而反。


王大將軍は既にして逆を為し、軍を姑孰に頓す。晉の明帝の英武の才を以て猶お、相い猜憚せるは乃ち著し。戎服にして巴賨馬に騎し、一なる金馬鞭を齎ち、陰察す。軍の形勢の未だ十餘里に至らざるに、一なる客姥の店に居し食を賣れる有り。帝は過りて之に愒み、姥に謂いて曰く「王敦の兵を舉げ逆を圖れるに、忠良を猜害す。朝廷は駭懼し社稷は是れを憂う。故に劬勞し、晨夕、相い覘察せるを用う。形迹の危露し、或いは狼狽を致せるを恐る。追い迫らるの日、姥にては其れ、之を匿さん」と。便ち客姥に馬鞭を與え、去る。行きては敦の營を匝り、出でるに、軍士は覺りて曰く「此れ非常の人なり」と。敦は臥せれど心動きて曰く「此れ必ずや黃鬚の鮮卑奴來たれり」と。騎に命し之を追わしむるも、已にして多く許りの里を覺ゆ。追士は因りて向の姥に問うらく「一なる黃鬚の人の馬に騎し此を度らるを見ざらんや?」と。姥は曰く「去りて已にして久し。復た及ぶべからじ」と。是に於いて騎人は意を息め、反る。


(假譎6)




奴はとんでもない物を

盗んでいきました。


あなたの、機密です。

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