張華6  龍と鶴     

荀陰じゅんいん陸雲りくうんの二人に面識はなかったが、

これを張華ちょうかさんが引き合わせる。


「二人に会話してもらうのだがね。

 二人とも文人として素晴らしい。

 ならば、ありきたりの言葉でなど

 会話をしないでくれたまえよ」


お茶目オヤジですねー張華さん。


先手は、陸雲。


雲間うんかん出身。なので龍として

 雲の間を駆け抜けます。陸雲です」


後手は、荀陰。


「太陽の下で、鶴が鳴いています。

 荀陰です」


あらあら、と陸雲は言う。


「雲間から白い雉が見えているのです。

 なにゆえ弓をつがえ、撃たないのですか」

 ↓

「荀陰さん、弾幕薄くないですか。

 こちらが出身地と字と諱を掛けて

 ネタフリしてるんですから、

 うまうまと飛び込んできてくださいよ」


すると荀陰、返すよ。


「龍とはとても雄々しく、

 強いものだと聞いておりましたのにね。

 実際に見えたのは鹿でしたよ。

 鹿を撃つに、私の弩は強すぎます。

 なので、撃つのを躊躇ったのです」

 ↓

「おやおや、ネタフリだったんですね。

 陸子龍ともあれば、どぎついネタ

 ぶっ込んでくるのでは、と構えましたが、

 いざ蓋を開けてみれば、どうでしょう。

 あんまりにもチョロいネタ過ぎて

 どうしようかと思いましたよ。

 できれば、もう少しまともなネタを

 振ってくださいませんかね?」


それを聞いて張華さん、爆笑であった。


ちなみに、この席において、

ずっと陸雲は荀陰に

やり込められっぱなしだったとか。




荀鳴鶴、陸士龍二人未相識,俱會張茂先坐。張令共語。以其並有大才,可勿作常語。陸舉手曰:「雲間陸士龍。」荀答曰:「日下荀鳴鶴。」陸曰:「既開青雲覩白雉,何不張爾弓,布爾矢?」荀答曰:「本謂雲龍騤騤,定是山鹿野麋。獸弱弩彊,是以發遲。」張乃撫掌大笑。


荀鳴鶴、陸士龍の二人は未だ相い識らず,俱に張茂先が坐にて會う。張は令し共に語らしむ。其の並べて大才有れるを以て、常語を作す勿るべしとす。陸は手を舉げて曰く:「雲間の陸士龍なり」と。荀は答えて曰く:「日下の荀鳴鶴なり」と。陸は曰く:「既にして青雲の開くれば白雉を覩む、何んぞ爾は弓を張らずして、爾は矢を布かんか?」と。荀は答えて曰く:「本より雲龍は騤騤なりと謂いたるに、定めし是れ山鹿野麋たるか。獸は弱く弩は彊し,是を以て發せるを遲る」と。張は乃ち掌を撫し大いに笑う。


(排調9)




荀陰

潁川えいせん荀氏。まー荀彧じゅんいくのご親類祭りですね世説新語。つーかこれ、例によって更に韻律的な埋め込みもして来てんだろ。で踏んできてるし。ただ、両者の文字数が合ってないから探るのキツい。

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