劉宝   お礼参り    

劉宝りゅうほうは若い頃、沢で漁をしているとき、

よく見事な歌を歌っていた。


聞く人の誰もがその歌に立ち止まり、

耳を澄ますほどだ。


さて、ある老婆がこの歌を聞き、

大いに感動した。

このひとは只者ではない、そう思って

豚をまるまる一頭捌き、

劉宝にプレゼントした。

すると劉宝、まるまる平らげるが、

礼を言うこともない。


あれ、もしかして足りない?

老婆は思う。なんでやねん。


もう一頭さばいてみれば、

半分まではやっぱり食べた。

けど残り半分を残し、さっさと立ち去った。


ぇえ……


さあ、後日談である。

かの劉宝さん、人事部に就職した。

この頃、例のおばあさんの子供が

小役人になってた。

なので劉宝、この子をいきなり抜擢。


何が何だかわからない息子、

母に聞く。すると母が答える。


「実はね、劉宝様に以前豚を

 振る舞ったことがあってね……」


んー……ええと、意味が解らない?

けど、抜擢にはお礼をするべきだろう。

牛や酒をもって、劉宝の家に向かう。

けど、劉宝はまともに会ってくれない。


「帰れ帰れ! 礼ならもうしただろう!

 そんなもん貰っても、

 あれ以上の礼なんかできんぞ!」


えぇ……



こんな調子の人だったから、

劉宝、誰かの癇気に障ったのか、

しばらく肉体労働の罰に

駆り出されることになったそうだ。


が、そこに手を差し伸べたのが、司馬駿しばしゅん

司馬懿しばいの息子の一人である。

司馬氏の中にあって

名行政官と讃えられる人だ。


その司馬駿が、劉宝を助けるため、

4.7kmほどの長さの

絹の布を納め、保釈。


これは当時の美談になったそうである。




劉道真少時,常漁草澤,善歌嘯,聞者莫不留連。有一老嫗,識其非常人,甚樂其歌嘯,乃殺豚進之。道真食豚盡,了不謝。嫗見不飽,又進一豚,食半餘半,迺還之。後為吏部郎,嫗兒為小令史,道真超用之。不知所由,問母;母告之。於是齎牛酒詣道真,道真曰:「去!去!無可復用相報。」

劉道真は少き時、常に草澤にて漁せるに、善く歌を嘯い、聞く者に留まりて連らなざる莫し。有る一なる老嫗は、其れを非常の人と識り、甚だ其の歌を嘯えるを樂しみ、乃ち豚を殺し之を進む。道真は豚を盡く食せど、了には謝せず。嫗は飽かざると見、又た一に豚を進むれば、食らうるに半ばを餘らせ、迺ち之に還ず。後に吏部郎と為れるに、嫗が兒の小令史に為りたれば、道真は超して之を用う。由なる所を知らざれば、母に問う。母は之を告ぐ。是に於いて牛酒を齎し道真に詣でるに、道真は曰く:「去らんか! 去らんか! 復た相い報ゆるに用いるべかるは無し」と。

(任誕17)


劉道真嘗為徒,扶風王駿以五百疋布贖之,既而用為從事中郎。當時以為美事。

劉道真の嘗て徒を為さるに、扶風王の駿は五百疋の布を以て之を贖わば、既にして用いて從事中郎と為す。當時は以て美事と為さる。

(德行22)




なんだこれ(なんだこれ)


ともあれ、この劉宝さんは彭城劉氏と言う家柄です。どんな家柄かっていうと、漢の劉邦、その弟(劉交)の子孫。で、ここが誰に連なるかってと、劉裕。いや劉裕のほうの血統は若干微妙ですけどね。こんな感じで人が思いがけぬ人に繋がるのが面白いところだけど、そこ把握できてないと面白みが半減することもあったりで、まーめんどくさいですわよねー。

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