武帝14 高い高い陵雲台2

武帝ぶていさま、

どうしても司馬衷しばちゅうの暗愚を認め切れない。

何としてでも帝位につけたい。


それに対しては、多くの重臣らが

「太子だけは勘弁してください」

と、どうにも割とダイレクトに

言っていたようだ。


さてあるとき、武帝と衛瓘えいかん

陵雲台りょううんだいにのぼった。

あっ再建したんですね。


陵雲台は帝の為にしか

席が用意されていない。

武帝が席につくと、

衛瓘、高さに酔ったふりをして

膝をつき、席を撫でさする。


「この座が勿体のうございますなぁ」


衛瓘の意図、すぐに武帝は察する。

搦め手かよ、イラッと来た武帝は、

けどさわやかに言い返すのだ。


「衛瓘、酔ったのかね?」




晉武帝既不悟太子之愚、必有傳後意。諸名臣亦多獻直言。帝嘗在陵雲臺上坐、衛瓘在側、欲申其懷、因如醉跪帝前、以手撫床曰:「此坐可惜。」帝雖悟、因笑曰:「公醉邪?」


晉の武帝は既にして太子の愚かなるを悟らず、必ず後に傳うるの意有り。諸もろの名臣は亦た多く直言を獻ず。帝の嘗て陵雲臺の上に坐して在れるに、衛瓘は側に在り、其の懷きたるを申さんと欲し、因りて醉うが如く帝の前に跪き、手で以て床を撫でて曰く:「此の坐、惜しむべし」と。帝は悟りたると雖も、因りて笑いて曰く:「公は醉いたるか?」と。


(規箴7)




衛瓘

鍾会しょうかいの乱鎮圧に大功があったひと。ただ個人的に好きなのは、このひとの策謀によって鮮卑せんぴ拓跋たくばつ氏、後に北魏を立てて華北を統一した一族がガタガタに揺さぶられまくっていた、と言う点。超絶策謀マンというイメージで、このエピソードも割とその辺の雰囲気を漂わせてて好き。もっともその最期は賈南風かなんふうによる謀殺だったのだが。


それにしても世説新語、武帝を八王の乱を招く原因を作った皇帝として、断乎として頑迷固陋、凡愚な人物として描きたい意志が感じられて悪くない。まー当事者の子孫としては恨みもぶつけたくなるだろうし、仕方ないですね。ましてやそう言う形式を表明することが「孝」に繋がる世界だしね。

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