武帝11 仲直らせ(失敗)

向雄しょうゆうと言う人が河内かだい主簿、

要は河内郡の幹部になった時のことである。


彼の権限ではどうしようもない

トラブルが発生したのだが、

ボスの劉淮りゅうわいが理不尽にキレた。

こっぴどく杖で打ち据えた上、追放。


こんなことこそあったものの、

その後二人はそれぞれ順調に出世する。

向雄は黄門郎こうもんろうに、劉淮は侍中じちゅうに。

帝の側で顔を合わせることも多い役職だ。


が、昔の遺恨がある向雄。

ぜんぜん劉淮と話そうとする気配がない。

なんだこれ、武帝ぶていが二人について聞くと、

過去にこんな遺恨がある、という話だ。


何だよそれ、もう昔の話じゃんよ。

水に流せよそんなもん。

武帝さま、そう命令した。


命じられたので仕方なく、

向雄は劉淮のところに向かう。


「命令だから出向きました。

 ところであんたと俺、

 今更仲良くする必要ないですよね?」


そんだけ言って立ち去る。

それ聞いてキレるのは武帝さまである。


「いやいやいやいや向雄、

 余はなんて言ったっけ!?

 仲良くしろ、っつったでしょ!

 なに改めて絶縁状叩きつけてんの!?」


しかし怯まず、向雄は言う。


「古の君子であれば、

 人を引き立てるのも、懲罰するのも、

 礼に則った作法で行っておりました。


 なれど、いまの士大夫はどうでしょう。

 引き立てるときには

 抱き締めでもせんばかり。

 近すぎでしょう、あれ。

 そして懲罰に関しては、

 崖から突き落とさんばかりの手酷さ。


 はっきり申しましょうか、

 私が劉淮のそっ首かっ切らないだけ

 マシだと思ってください」


あっ、これいろいろ無理なやつだ。

武帝は二人の仲の取り持ちを諦めた。



 

向雄為河內主簿、有公事不及雄、而太守劉淮橫怒、遂與杖遣之。雄後為黃門郎、劉為侍中、初不交言。武帝聞之、敕雄復君臣之好、雄不得已、詣劉、再拜曰:「向受詔而來、而君臣之義絕、何如?」於是即去。武帝聞尚不和、乃怒問雄曰:「我令卿復君臣之好、何以猶絕?」雄曰:「古之君子、進人以禮、退人以禮;今之君子、進人若將加諸厀、退人若將墜諸淵。臣於劉河內、不為戎首、亦已幸甚、安復為君臣之好?」武帝從之。


向雄の河內主簿為るに、公事の雄に及ばざる有り。太守の劉淮は橫怒し、遂には杖を與え之を遣る。雄は後に黃門郎と為り、劉は侍中と為るも、初にも言を交わさず。武帝は之を聞き、雄に復た君臣の好みを敕せるも、雄は得ざるのみにして、劉を詣で、再び拜して曰く:「向は詔を受くるに來たるも、君臣の義は絶えたり、何如?」と。是に於いて即ち去る。武帝は尚お不和なるを聞き、乃ち怒りて雄に問うて曰く:「我は卿に復た君臣の好を令せるに、何をか以て猶お絕えたるか?」と。雄は曰く:「古の君子は、人に進みて以て禮し、人より退きて以て禮す。今の君子、人に進みて將に諸厀を加えんとせるが若く、人より退るに將に諸淵を墜さんとせるが若し。臣は劉河內が首を戎せるを為さず、亦た已にして甚だ幸なれば、安んぞ復た君臣の好を為さんか?」と。武帝は之に從う。


(方正16)




向雄

いろいろガチな人。なおこの人は無実の罪を着せられた時、鍾会しょうかいに助けられたことがある。そのため鍾会が処刑された後、誰も顧みない鍾会の遺体を葬ったそうである。それを司馬昭しばしょうが「お前なに反逆者を丁重に扱ってんの!?」と問い詰めたら「処刑で懲罰は終わっていますでしょう? すでに懲らしめられた者に対し、旧恩を果たすことのどこが礼に悖るんですか?」と切り返したという。最終的には前エピソードの王済おうさいと同じく司馬攸しばゆうの左遷取り消しを求めたが聞き入れられず憤死。司馬攸がらみは闇が深くて良いですな。


ところで向雄の「古の人は~」は『礼記らいき檀弓だんぐう下156からの引用であるらしい。これ「今の若いもんは~」言説の最古のものとして見てよさそうじゃないすかね。パピルスとか楔形文字のアレって現存怪しいらしいじゃないですか。


劉淮

晋書だと劉毅りゅうきになっている。あと杖でビシバシやったのは別の人で、呉奮ごふんという。なんかもう色々雑だな。つーかこのエピソードにも武帝さま sage が著しくてこわい。

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