2通目 ②

 時計屋うさぎが出ていき、店内には静けさだけが残った。もちろん、来る前も同じくらい静かだったのだが、それを忘れるくらい時計屋うさぎは賑やかで、慌ただしかったということだろう。

 愛莉は時計屋うさぎから手渡された手紙をどうしようか眺め、ヒューモスに渡した。

「あの、これって…?」

「招待状だよ?」

「そうじゃなくて!宛先も何も書いてないじゃないですか!」

「そんなもの、どうでも良いだろう?」

「どうでも良くないですよ…。てか、また勝手に!?」

「まずは中身を見なければだからな。」

 宛先よりも中身をみようと、ヒューモスは当たり前のように手紙の封を開けた。流石にそれはプライバシーの問題が出るのではと止めるのだが、男は平然と封を切ってしまう。



 前略

 今宵、帽子屋・時計屋によるパーティーを開催いたします。

 この招待状を受け取った方は是非、我々のもとまで足をお運びください。

 特性のお茶やお菓子を用意して、お待ちしております。



「ふむ。」

「やっぱりどこにも書いてないじゃないですか。」

 愛莉は呆れたように口にした。しかし、ヒューモスはどこか納得したような表情で、手紙を見つめていた。そして、手紙を閉じると意気揚々と言った。

「しかし、なるべく早くと言われたんだ。早速支度をしなければな。」

「も、もう行くんですか?今度はどこなんですか?」


 そんな愛莉の問いかけの、ほとんど答えになってないことを、うっすらと笑顔を浮かべながらヒューモスは答えた。

「無論、手紙が全て教えてくれるよ。」



「準備は済んだか?」

「準備も何も無いでしょう…。」

「まぁそれもそうだね。」

 よそ行き用のよく分からない格好をして、店の奥から出てきたヒューモスを愛莉はどこか腑に落ちないといった顔で眺めた。

 そしてヒューモスは、普段外に行く方の玄関のドアノブに手をかけた。


「あれ、今回はこっちの扉使わないんですか?」

 愛莉が指を指した方には、以前愛莉の元いた世界の、過去の世界へ行った時使った扉があった。手紙に導かれることでほかの世界へ行けるとのことだったが、何故か今回は普通の玄関の方へヒューモスの足が向かっていた。

 ただ、以前『手紙』と呼ばれた愛莉が、試しにその扉を開けてもただ外に出るだけだったが。


「うむ。どうやら、そこにはないらしい。」

「なら一体どこに…?」

「この世界と考えるのが筋だろうなぁ。」

「この世界…。ならわざわざヒューモスさんに頼まなくても良かったんじゃ…。」

「あちらには、あちらなりの考えがあるんじゃないかな?わからないけど。」

 わからないと口にしたヒューモスの表情は、到底、わからない人がする表情ではなかった。むしろ、この先の全て見通した人が浮かべるような笑顔を浮かべていた。

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Aliceの国の郵便屋さん チェシャ猫 @vulpes6969

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