第48話 一歩前進やな!
町の住人は逃げ惑い、反対方向に衛兵が数人走っていく。
こんな田舎の町でも、ちゃんと衛兵がいるのは関心だが、ここ10日間で20人もみてない気がする。
つまり、
「これあかんとちゃう?」
ようやく追い付いたキースと二人、北門を破壊した犯人と向き合う。
レンガの土台に木のアーチ、都会に比べればお粗末な門(というよりは入り口の目印程度)を豪快に破壊し、ソレは奇怪な雄叫びをあげた。
「ウキョキョキョキョキョキョォ!!!!!」
足元には4人の衛兵がすでに倒れており、6人が槍を向けて距離をとっている。
門を越える7メートル程の巨大なネズミ。しかし体は腐り、ドロッとした体液を垂れ流しながら、二足でゆらゆらと立っていた。
「くせぇな」
「ほんま、食後にみていい生き物やない・・・!ちゅーかこれ生きとんのか?!」
確かに、生きてるように見えない、というか、アンデッドの部類に見える。
背中には大きなイボというか、こぶというか。白濁した目はどこを向いてるかわからず、右目に至っては《垂れて》しまっている。
このゾンビっぽさは、かつてセルティコ近郊の森で遭遇したゾンビウサギに酷似していた。
「お前ら逃げろ。こいつは俺がやるよ」
デュランダルを抜きながら歩み寄る。
「し、しかし!我々はこの町を!」
「このおにーさんが何とかしてくれるそうですよー!怪我しとる人つれて、ほら行った行った!」
キースがそういうと、瓦礫のしたやネズミの足元に転がる衛兵が不自然に宙に浮かび、そして町の中へとふわふわ飛んでいった。
ネズミはそれをみて首をかしげると、スンスンと鼻を鳴らす。
「さっさと片付けたいとこだが、キース、こいつはここで殺せない」
「嘘やろ、飼う気?餌代わかってる?」
「んなわけあるか!こいつは殺すとなぜか弾けるんだよ!」
「どういう構造なんそれ・・・まぁええわかったわ」
キースが両手をネズミに向けると、今度は毛が逆立つほどの風が地面から吹き上げ、まるで普通のサイズのネズミをつまんで投げ飛ばすように、豪快に吹き飛ばした。
避難している住人達からも「おぉお!」っと歓声があがる。
「なかなかやるな。よし・・・いくぞ」
「あとはうちらでやりますけど、何してくるかわからへん!ちゃんと避難しててなぁ!」
壊れた門を踏み越え、走る。
「はやっ!人間やないでしょ君!」
「今はちゃんと人間だよ。お前それズルいな、浮いてんじゃん」
「どーやええやろ、スーパーヒーローや!」
軽く前傾姿勢をとったまま、俺の横に並んで飛んでいる。楽そうで羨ましい。風を操るってかなり便利だな。
走っているうちに、ネズミが激突した跡だろう、黒い毛皮と赤黒い血肉がベッタリと地面にこべりついており、すぐ近くに少しだけ崩れたネズミが横たわっていた。
「もうこれ死んだんやない?」
「そうだといいけどな。ちょっと離れてろ。バーストフレア」
右手から放つ火球が、ネズミの腹部に触れると炸裂した。そして宙に舞った肉片はそれぞれ炭になって散っていく。
が、体全部とはいかず、頭と薄皮のついた背骨、そして足と尻尾が残った。
「おぉ、やりますねぇ!こんがりやん!」
「でかいな、何回か繰り返して完全に消してやる。バーストフレア」
頭と足を繋ぐ細い背骨に直撃し爆ぜる。同じようにして散った骨と肉は火花と共に燃え尽きたが、奇妙なことが起きた。
「ほんまいけてます?頭だけ動いてんねんけど!」
「こりゃ気持ちわりぃな・・・」
頭を吹き飛ばそうとした瞬間、ベシャッと心地悪い音と共に潰れた肉塊と変貌を遂げた。
目に見えない何かに、潰されたようだ。
「うーえ、これ、グロ、きたな」
「まぁ・・・結果オーライ」
風というより重力に潰されてるように見える、これもキースの能力か。すごい力だな・・・目に見えないという点はレギオンにいたやつと同じなのに、こっちの方が迫力がある。
「見とらんで、はよ燃やしてくれません?」
「あぁすまん、感心してた。ファイアボール」
もはや潰れた肉塊と化したネズミの頭を火球が燃やしていく。いつの間にか能力は解いたのか、順調に腐肉を炭へと変えていった。
「手間のかかる。こりゃ何匹もいたらたまんねぇな」
「・・・うわぁ言いにくいんやけど、後ろ後ろ・・・!」
キースのしかめっ面が背後に向けられている。
「まじか・・・」
肉眼で見える距離に、少なくとも5匹の巨大なゾンビネズミと、その背後にさらにネズミを凌ぐ巨体の人型ゾンビ。
「仲良しかよ」
「あんなん町に来たら一瞬で全滅や、よっしゃしばいたる」
「お前は病み上がりなのに元気いいな」
「死体かてあんな元気に襲ってきよるんや、へばってられません。君魔法も使えるんやったら、広範囲の炎魔法もいけますか?」
「あいつら掃除できるぐらいには」
「ほんならシャキっとしぃ。行くで!」
キースがこちらに向けて手のひらを広げたのまでは見えたが、一瞬で景色が変わった。逆バンジーのように上空へと吹き飛ばされたためである。
コートがずり落ちそうなほどの風圧によって自然と『気を付け』の姿勢になってしまう。あまりに凄まじい風が、なかなかに寒い。
巨大ゾンビを3体分は越えるほどの高度に到達すると、真下ではなく、ゾンビ達目掛
けて斜めに降下した。
これ、群れの真ん中に突っ込むコースだ。
なんとかできる。なんとか出来るけどこれはちょっと・・・!!
「いったれぇ!フレッシュ流星やぁ!」
下の方からなんか聞こえた気がするけど、ほとんど風のブォオォしか聞こえない。
激突する前に、背負ったデュランダルを抜き、ネズミの一匹を縦に切り裂く。が、俺はそのまま肉の裂け目に飛び込む形に・・・!!
きたねぇくせぇ!!!きもちわりぃ!
「イグニートォォォオ!」
炎の渦が全身に巻き付くように駆け巡り、自分を爆心地にしてそれらが一気に弾け、周囲を焼き尽くす。
身にまとわりつく不快な肉や液体は蒸発し、ゾンビたちを焼き払う。すぐに青空が見えた。
崩れゆくゾンビネズミの体から落ちながら、両腕が炎に包まれあがき苦しむ巨大な人型ゾンビの姿が見えた。
他の肉の壁に救われたか。両腕程度で済むとは。
地面に着地し、漂う燃えカスと焦げ臭い匂いの中で巨人がどれほど燃えるか見上げていると、フワッと空気が一瞬きれいになったような気がした。
強く風が吹いたから。
「うーわ想像よりやりましたねぇ。うちのことも燃やしかねん勢いですやん」
「飛ばされたのが俺じゃなかったら燃やされても文句言えねぇぞ。死ぬから。急にあんなことされたら」
「死んでたらうちのこと燃やせんから結果オーライですやん。それよかほら、これなんとかせんとでしょ」
立ったまま暴れる巨人の両腕がずるりと崩れ落ち、地面に着くと燃え尽きた。
そして低く、喉になにかつっかえているような不快な咆哮を空へと放った。
「怒ってますねぇ、中途半端に生かすからやないですか?」
「中途半端に生きてんのは出会ったときからだろ。そもそもコイツら痛覚あるんだな、ゾンビなのに」
「わりと頭はしっかりしてるんとちゃう?あのでっかい頭に詰まっとるんでしょー脳みそちゃんが」
15メートルはある巨人を前にキースはヘラヘラと笑っている。人間にかなり近い口は怒りゆえか歯を食い縛りよだれをだらだらと垂らして、キースを睨む。
「もうええよ、疲れたやろ」
いつの間にか、キースの手には光輝く、翼の意匠が施された白銀の槍が握られていた。突然現れたが、もとから握られていたかのように持っている姿に違和感がない。
一方巨人は片足を振り上げて今にもキースを潰そうとしているが、当のキースは片手でバトンを回すように、くるくると槍を回しつつ巨人を見上げていた。
「おつかれさん」
ビシッと穂先を巨人に向けて回転を止めると、少しだけ腕を引き、下から投げ上げた。
緩慢な動作と一致しない勢いで高速で放たれた槍は巨人のアゴを貫き、巨人も勢いに負けて少しのけ反った。だが見たところ大したダメージではないようだ。
「ちょいと荒れるで」
言うと同時、風が俺とキースを囲むように吹き上がる。まるで台風の目にいるかのようだ。
そしてボゥともバゥともとれる瞬発的な突風の音がなると、巨人の頭は派手に破裂した。風船が割れるように、派手に内容物が飛び散るが、巻き上げる風がその全てをはじき飛ばす。
「凄まじいな、あの槍」
「レストランで出すようなもんやないやろ?パスタなんて巻いたらパーンって吹き飛びますわ」
「巨人の頭でも吹き飛ばすんだもんな、刺されたくないねぇ」
これが神と仲良くなる特典ってか。
プシューケーもこんくらいやってほしいところだけど、あまり期待はしないでおこう。まぁ俺にはデュランダルと宵鏡があるからな。武器はもういいかな。
「見渡す限り、もうさすがにゾンビはおらんみたいや。帰りましょ」
「おう。もう粉々だけど、一応燃やして帰るか」
丁寧に、確実に死体を燃やし尽くして、俺達は街へと引き返すことにした。
少し歩いて街へとたどり着くと、住民の歓声が俺達を迎え入れた。
いつ以来だろうか、こうして多くの人に喜ばれたのは。
「何ボケーっとしてるんです?もっと偉そうにせんと」
キースはニコニコ笑いながら町の人達に手を振り、左手で俺の背中をポンポンと叩く。
「別に偉くはねぇだろ」
「謙虚やなぁ、街を守ったんや、偉い!」
偉いらしい。
まぁ放っていたら街の人たちはみんな死んでいただろうし、偉いか。
「あ・・・あのぉ!そ、そのこおふたりぃ!」
口ひげを蓄えた穏やかな初老の男が慌てた様子で駆け寄ってきた。ぜぇぜぇと息を切らし、せきまでしている。
「いやぁありがとうございました。一時はどうなるかと・・・。あ、申し遅れました・・・私は町長のコルトと申します。旅の方、本当に本当にありがとうございます。よろしければ、私の館へ来ていただけませんか?精一杯お礼をさせていただきたい。いかがでしょう?」
横に並ぶキースに視線をやると、イシシっと品のない笑いを漏らしながら視線を返してきた。行こうぜってことか、まぁ礼なら悪い気はしないけど。
「じゃあせっかくだし、お邪魔しようかな」
「ぜひぜひ!」
こうして俺達は町長の家へと招かれ、キースと二人でその屋敷へと向かった。
~~~~~
屋敷というのは、大げさだった。
少し大きな一軒家。田舎町の中では少し大きいってぐらいだった。
というのを俺は気にしていないんだけど、隣の関西訛りはそうではなかったようだ。
あからさまに『大したことない』って思ってる顔で、なんなら少しがっかりしたようにたびたび小さなため息を漏らしている。一体何を期待していたやら。
「おい、やめろよそういう顔、露骨すぎる」
「思ってたんと違う」
俺は声をできる限り潜めているが、机一つ隔てて座ってる町長に、これ聞こえてないだろうか。
「さぁ焼けましたよー、たんとお食べになって!」
町長の奥さんが焼きたてのパイを運んできてくれた。エプロンをつけ、髪はパーマの優しそうな顔に、ふくよかな体型。なんだか見るからに穏やかそうな人だ。
「私の家の自慢の料理です。この町のといってもいいかもしれませんな!」
「まぁはずかしい!お客様の前で、品がないですよ」
そう言いながらホホホっと笑い合う。絵に描いたような仲良し夫婦にキースは眉をピクピクさせているが、しっかり作り笑いしていた。
「ところで、あんなでっかい魔物が、たまにこの町に来よるんですか?」
キースは出されたパイをカッターで切りながら言う。
お前ガツガツいくな、別にいいけど。
「いえいえ、こんなこと今までありませんでした。そんなこと起きていたらこの町はとうに壊滅しています。今回だってあなた方がいたから無事に済んだだけで、町の衛兵じゃどうにも・・・」
「そうでしょうねぇ。うちもあんなアンデッド見たことない。そもそもあんなでかいネズミにも会うたことすらないけど。どっからきたんやろか?なんか君、知ってる感じやったよな?」
「俺は以前似たようなやつと遭遇したことがあるんだ。そのときはウサギだったけど、似たように動く死骸だった。心臓も動かず、魔力で動いてたよ。あと倒すと破裂して砕け散った」
あのときの、爆裂した腐肉まみれのモルドの顔はなかなかに同情を誘ったもんだ。全身肉に埋まって余計に気持ちがわかる。
まぁそのおかげで今回はすぐに焼却処分したんだ、感謝しないとな。
あのサイズであの数破裂されたらたまらない。
「方角からいうと、ウゴンダの森ですが、あそこにはあのような魔物はいません。魔力の少ない動物や弱い魔物しかいないはずです。しかしすぐ近くに村が・・・無事だといいんですが・・・」
町長は残念そうに眉をしかめる。よそ村の話なのに、本心から心配しているようだ。
「あんなのが押し寄せてきたら小さな村ぐらい簡単に崩壊するぞ。残念だけど、のぞみ薄だな」
「また襲われたらこの町もひとたまりもない。そこでなんですが、どうかお二人に、ここに留まっていただきたいのです」
なるほど、この呼び出しはそういう話か。なんとなくそうだろうとは思っていたけど、しかし、どうにもならないな。
「悪いが、俺はたまたまこの町に来ただけなんだ。助けてやりたいけど、そうもいかない」
「うちもや。ほんま悪いねんけど・・・」
町長と奥さんはお互い顔を見合わせ残念そうに目を伏せたが、町長は奥さんの手を両の手で強く握り、弱々しくも笑顔を浮かべた。
「いえいえ、こちらこそ図々しいお願いでした。申し訳ない、甘えていてはいけないな。わたしたちの町は、私達で守らなければ!」
今はただ、あれらがまた襲来しないことを願うしかない。少しとはいえ世話になった町だから、何かあっては快くない。
「さぁさぁ、晩餐はまだ終わっていませんからね!たんと食べて、素敵な旅立ちをしないと!」
そう言って、奥さんはキッチンへと消えていった。
その後、他愛のない会話をいくらかと、デザートがいくらか出てきて、お開きとなった。
結局何もしてやれないわけだが、いちいち気にしてはいられない。気にしてはいけないと、決めている。
「はぁ・・・いつまで経っても、なれねぇなぁ」
町長の家を出て、宿への帰り道。
ため息と一緒に漏れる嘆き。こういうの久々なだけに、不愉快が残る。
「期待だけさせてしまうこと?」
「そう言うと自意識過剰な気もするけど。前はよくあったんだよなぁ、ちょっと人を助けると、頼られて後ろ髪を引かれて。最初は悪くない気分だったけど、今となっては無視するしかないからなぁ」
期待だけさせて悲しませるのはお家芸と化しつつあるが、やっぱり気分がいいものではない。だって、村長のあの顔よ・・・そりゃまぁ自分たちにとっては死活問題だもんなぁ。
「何をそんなに辛気臭い顔しよるんです?」
「だから、なんかわりぃよなぁって。ここの人たち、みんな死んじまうかもしれねぇんだぞ?」
「いやいや、何言うてんですか。今日君が、いやうちもやけど。二人で守ったからこうしてみんな楽しそうに生きとるんやろ?うまいパイもプリンもフルーツポンチも、その礼でもろたんやん。どこに落ち込んでんねん」
「でもこれからのことを考えたらよ・・・」
「それこそ自意識過剰ですって。今日は俺よく頑張った!キースちゃんもがんばった!それでええやん?」
「そうだなぁ・・・」
「道ゆく人が、閉店の準備をする店員が、未だ緊張感のある衛兵たちが、君の助けた人達やん。落ち込んでたらみんなに悪いですよ?しゃんとせんと」
キースはニヤリと笑い、俺の背中をぽん、と叩く。
思わず一歩、前に踏み出してしまった。
「お、一歩前進やな!もっとぽんぽんしたろ。ほれほれー」
「おい、ちょ、やめろ!」
背中をどんどん叩かれるのは良しとして、周囲からの目が恥ずかしい。並んで歩くマダム達は、やれやれみたいな顔をしていやがる。
「つーかお前、これからどこ行くの?」
「え、どこって、君の宿ですけど?他に行くとこないし。病院帰れとかいうんやないやろな!?」
「言わないけど・・・そうじゃなくて、この街出てからだよ」
「逆に、ええんですかぁ?うちが野に放たれてても。うちこの世界の人やないからぁ、誰かさんに殺されてまうんですけどぉ?」
わざとらしく間延びした喋り方でニタニタと笑いやがる。
「正直、判断に困ってはいるよ。魔王を狙うのであれば、お前はかなり厄介な障害になるだろうな。でもそんなことするとは思えねぇし、イニエスから助けられた恩もある」
「お、何や好印象ですねぇ。それはそれでちょっときもいで、どうしたん」
おーきもきも、と言いながら身震いして見せる。
「お前の処分については、保留。というか、とりあえずはかまってられない。レギオンに敵対してんなら利用する方が良い」
「はっきり言うやん。正直ですねぇ」
「とにかく、だ。俺にもやらなきゃいけないことがある。ここでは時間を使いすぎたし、一度戻らないと」
「やることって何があるんですか」
「これまでのことを報告しないとな。そのあとまたレギオンを片付ける」
「片付けるっちゅーても、アテはあるんですか?奴らの拠点もわからんのでしょ。魔界のひとたちは知っとるんですぅ?知らんでしょ」
痛いところをついてきやがる。
実際そうだ、いままでレギオンに捕まってただけだし、やつらの居場所について情報は皆無。また1から情報探しをするしかない。
「ところでさっきのゾンビ、あんなんどう考えても魔法やない。動かすだけの死体繰りにしてはクオリティが高すぎる。それやったら異世界人がらみや。それも強力な。ほんなら、なぁ?わかるやろぉ?」
「強力な転生者が例の村の方にいて、さらにレギオンに通じてる可能性が高い、だろ。その通りだ」
「せやったら行くしかないってわけです!な!報告なんてその後でもええやろ」
「ダラダラしてると逃げられるだろうしな。隣村までさっと行ってサクッとやっちまえばいいか」
「そうと決まればおやつ買わんと!!それより今日泊まるとこやけど~お姉さん イケメンのおる部屋がいいな~」
「急ぐから、泊まらないけど。もちろんゆっくり宿でも探してくれて構わないぞ、俺は先に行く」
「んん〜わかった。せやったら風呂だけ入らせてください。こんなまま次の村なんて無理。乙女には耐えられん」
どちらにせよ、宿にはいかないといけないし、しょうがないか。
「できるだけ急げよ。そもそも本来部屋に入れてもだめなんだからな」
「彼女ですーって言えばええやん」
「そう言ってもだめだろ」
つまらなさそうにため息をつくキースは無視して、足早に宿へと向かう。
死肉を操る異世界人、それが次の相手か。燃やせばいいかな。
~~~~~
ベッドの端に腰掛け、窓の外を見ると、まだ外はいくらか慌ただしい。
背後からはシャワーの音に紛れて、鼻歌が薄っすらと聞こえる。何を歌ってるのかはしらないが、ずっとループしてるのだけはわかる。
さて、受付で買った地図によると、ウゴンダの森はここから15キロほど。そして例の村、ウルゴングは森の奥にあるようだ。
名前が中途半端に似てて覚えにくい。
それはそれとして。ウルゴングまでの道はわりと舗装されている箇所も多いようだ。この町の周囲は平原みたいだから、迷うことも苦労するところもないだろう。
キースも移動は大変じゃなさそうだし、そう時間はかからないだろうな。
地図を閉じて、コートのポ内ケットに仕舞う。鼻歌もやんで、ドアを開ける音も聞こえた。
「だーーーれだ!」
そして背後から目を覆われた。
「キーーースだ」
「いーや不正解!キースちゃん、ですねぇ。残念やぁ正解のご褒美は、すんごかったのにぃ」
振り向かない。振り向いてなるものか。
「ほう。どのように」
「キースちゃんの、お胸様とご対面できたのにぃ」
「わりと着痩せするタイプなんだな、てっきり胸は小さい方だとおもアタタタタタタ!!!!!!」
覆っていた手が、爪をまぶたに立て、あ、目が、目が出る!
「おねぇさんな、そういう冗談は嫌いやねん」
キースの手首を握り、顔から引き剥がす。
あぶねぇ、こいつ本気で目を持っていく力だったぞ・・・
「あっ」
キースが間の抜けた声を出した。
何かはわからんが。
決して何かはわからんが、何か、布のようなものが床に落ちた音も聞こえた。もちろん、キースは背後にいるので、さっぱり、何が起きたかはわからないが。
「・・・おやおやぁ?君、今大チャンスやで。振り向いちゃう?振り向いちゃう〜?」
「振り向いちゃわない。いいから遊んでないではやく出る準備しろよ」
「ビビっとる。童貞がビビっとる」
「ど・・・!!!貧乳のくせに生意気な」
言うと同時にごろりと床を前転。
俺の発言に反応し、部屋の中が荒れるまではとても早かった。局所的に発生した嵐により、ベッドやカーペット、机等の家具という家具が壁へと弾き飛ばされる。
すぐさまデュランダルを手に取り一目散に部屋から脱出。判断の速さが生死を分ける。
「またんかこらおいぃぃいい!!!!!!!」
部屋の中から怒号が聞こえるが気にしない。俺はとりあえず走って逃げた。
・・・このあとめちゃくちゃ怒られた。宿屋に。
チートバスター 花畑弥生 @Yayoi-san
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