第47話 これがまず一つ目の特典、楽しくしゃべれます

ド田舎というだけあって、この町は広くはないようで、町ゆく人に聞けば、町の医者は一人だけ、それも分かりやすく町の中心側にいることが分かった。

地面を削るほど走り、すぐにそこに着いた。

この町にしては目立つ、大きな一軒家。赤い屋根に煙突があり、窓の位置や花壇等、左右対称な造りの病院。

1階より2階の方がデカい、頭でっかちな造りだ。


「悪いけど手続きとかは後にしてくれ。こいつが死にそうなんだ」


両開きの木造扉を開くなり、すぐ近くにいた人物にそれだけ伝える。

瀕死のキースを見るなり青ざめ、女性は急いで病院の受付へ『急患!先生よんで!』と叫んだ。

キースはというと、この街に着てすぐ意識を失ったままである。

かろうじて呼吸はしているが、それも弱くなっていっている。回復魔法をかけたが、効果が薄い・・・明らかに死に向かっている。


「君、早く連れてきなさい」


奥の廊下から慌ただしく出てきた、白衣の老人がバタバタと手招きをする。白い口ひげとあごひげ、そして縁の太い黒のメガネに短い白髪。

言われるがまま、キースを抱えて奥へ。すれ違う人たちはみんな、キースを見るなりギョッとして、距離をとる。

右へ左へ廊下を進み、そこで担架に移すよう言われ、キースを任せる。


「君はそこで待っていてくれ」


長椅子に座らされ、俺はやっと一息付けそうだ。

キースに比べれば全く大したことはないが、俺も怪我人ではある。瀕死の人間を抱えていたこともあって、服は血まみれだが、そんな俺を誰も心配しないぐらいには、キースの容体は悪かった。

複雑だ。殺す予定の人物を必死に助けるなんてのは、珍しい体験で、この後どうしたものかと迷う。

気にせずおいていくか。いや、さすがにそれはない。さすがに、恩知らずにもほどがある。

まぁそこまで答えを急ぐこともない。今は回復したキースを待ち、その後いろいろ話をすべきだろうし。

今は、待つしかない。


~~~~~


2時間半ほどたった頃。

いつの間にか座ったまま寝ていた俺は、肩を揺らされ目を覚ました。


「終わりましたよ。なんとか一命は取り留めました」

「それはよかった。助かったよ」


思わず、はぁ・・・っとため息が出る。自分で思ってた以上に気にしていたのだろうか。さすがにこれで死なれたら寝覚めが悪いにもほどがある。


「あいつ、話せそう?」

「まだ意識は戻っていませんので話すことはできませんが、面会はできますよ」

「じゃあちょっと見ていこうかな」


キースの病室まで案内され、その様子に少し驚いた。

全身に包帯、そしてホースからは何やら鮮やかな液体が注入されている。


「いたるところの骨が折れ、裂傷に火傷に打撲はもちろん、内臓も損傷。よくここまで生きてたどり着いたと思うよ」


背後、病室の入り口から先ほどの先生の声。くたびれたといわんばかりの口調で、実際、椅子に座ってぐったりしていた。


「こんな小さな病院で診るような傷じゃない。わしがおって本当によかったな」

「そうだな、ありがとう。俺にとってこいつは、実は友人でも何でもないんだけど、助かったよ」

「友人でも何でもない、か。変わった関係みたいだ、深くは聞かんよ。だがしかし、何がおきたらこんなにぼろぼろになる?」

「さぁね。女の喧嘩は恐ろしいってとこかな。俺も見ていたわけじゃないけど」


思い返せば情けなくてすこしイラつく。

何もできないと理解し、ただただ逃げた。女ひとり置いて、逃げたんだ。

また、俺が弱かったから・・・


「そんな顔しなさんな。ほら、どうせ来たんだ、なんか話してやったらどうだ」


あきれたような口調で医者は言う。


「なんかっつってもな・・・」

「話しづらいだろうし、わしらは出とくぞ。意識がなくても、鼓膜が揺れりゃ言葉は聞こえてる」


それだけ言って、医者と看護師は部屋から出て行った。


「・・・キース、まだ起きれねぇのか?」

「・・・」

「聞きたいこともあるんだけどな」

「・・・」

「そんなことより・・・なんつーかまぁ、正直助かったよ。誰かもよく知らんけど、ありがとな」


柄にもない。聞こえていないとはいえ、こっぱずかしくて背中がむずむずする。

外でもぶらつくか。ここがどこなのか把握もしたいし、可能なら魔王城とも連絡が取りたいし。何より落ち着かないし。


「置いていくんですか?」


ドアノブに手をかけたところで、掠れた声が聞こえた。


「一人で寝てるんは、暇なんですけどー?」

「お前、起きてたのか」

「いや、今起きた。・・・うわぜんっっぜん体動かへん・・・あたたぁ・・・」


うつろな目を天井に向けたまま、うめくように喋った。


「・・・動こうとすんな、ゆっくりしてろ」

「言われんでもゆっくりしますぅ。というより、何もできへん」

「とりあえず起きたこと医者に伝えてくるから、ちゃんと寝てろよ」

「いーやーや、さーみーしーい」

「うるせぇ黙って寝てろ」


病室を出て、近くにいた職員と思しき人物にキースが目覚めたことを伝えると、足早に去っていった。

自分でも気づかないような胸のつっかかりが取れた感じがする。キースが目を覚ましたことに、単純にほっとしている。


「らしくねぇ、かな」


再びキースの病室へ戻ると、体を起こして、窓から外を見ていた。


「お前・・・動くなって・・・」

「おんやぁ?もしかして君ぃ、うちのこと心配してるん?」

「・・・したらわりぃかよ」

「悪くはないけど・・・でも、うちのこと殺すんやろー?うちみたいなんはみんな殺すーゆうてましたもんね?」

「それはそうだけど、今じゃなくてもいい」

「なんでぇ?なんでなーん?じゃあいつなーん?」

「お前が元気になるまで。だからよく寝て食って休んでろって」


だめだこいつ、全然自分が瀕死の重体だったって自覚がない。

痛くねぇのかよこんだけ傷ついて・・・


「んえ!?」


布団に寝かせようと背中に手を回すと、キースは奇声を発し、目を見開きこちらを向いた。


「すまん、いたかったか?」

「いや、いんや・・・なんでも」

「そ、そうか。驚かすなよ、傷口触ったかと思ってびっくりしたわ」

「あ、あーーー!内臓が痛いーー!!死ぬーー!」


ふざけて痛がってやがる・・・と言いたいところだけど、本当に痛むはず。顔が引きつってやがる。


「じっと寝てろよ、たまには静かにしてても、ばちは当たんねーぞ」

「喋らんと死ぬねんうち」

「どんな心肺機能だよ」

「君こそどんな心配の仕方やねん、まぁええけどねそのツンデレ」

「口が減らねぇなぁ、感心するわ。聞きたいこともあるんだ、早く回復しろ」

「そんな、聞くことなんかそうないんやないですか?まぁでも年齢以外なら教えたりますよ。スリーサイズは有料」

「年齢は興味ないしスリーサイズはもっと興味ない」

「性欲枯れてるん?」

「枯れてないわ滾ってないだけ。ほらさっさと横になってろ。俺は散歩してくる」

「テキトーに果物買ってきてー」

「贅沢言うな。肉食え、肉」


病室の扉を閉める間際、ようやくおとなしくする気になったか、包帯に包まれた腕を肘から先だけプルプルと上げて、手を振っていたのが見えた。

さて、俺もそんなにゆったりはしていられないが、少しだけこの町で休もう。

根拠はないが、こんな病院が一つしかない田舎町にレギオンは来ないだろう。というより今は来ないでくれ。

ひとまずは、キースがある程度復帰するまで・・・そう思いながら病院を出て、街へと向かう。


「田舎には田舎の良さがあるよなぁ」


店が立ち並ぶ町の中心で、子供が追いかけっこをしている。レンガを敷き詰めた広場では、3人ぐらいで立ち話をしている女性や、ベンチで楽しそうに話すカップル、窓を開けて洗濯物を干していくのも見える。

他にも見回したところ、幸い、果物もたくさん売っているようだ。


~~~~~


床を突き破って出てきた、いや天井に吹き飛ばされたお兄さんは、謎の長身の女性に助けられ、屋敷のいずこかに消えてしまった。

イニエス殿下もそれを追いかけて行ったが、


「逃げられましたね。しかしこれは予想外」


逃げられたみたいだ。無様に囚人してるお兄さんを見ることができなかった・・・これは大変悔やまれる。

突然現れた女性の何かの力で体を地面に押し付けられたせいで、背中も首も痛いし、具合が悪い。


「くそ、なんなんだ!やつらは!」

「過ぎたことですよ、メルエド。計画は狂いますが、これはこれで面白いかもしれませんしねぇ・・・イヒヒ」


相変わらず笑い方が気持ち悪いこと。ルカちゃんは私とこの人が似てるというが、非常に不服。私はここまで気持ち悪くない。


「さっき飛び出してきた女の人は誰?あなたへの恐怖や怒りが多く見えたけど、知り合いなんでしょ?」

「彼女はキース・カーマイン。度々私の邪魔をしてきては、都度返り討ちにしている方です。凶悪な能力と性格を持っているので、遭遇した際は十分に注意してくださいね」

「レギオンにとっては敵なのね。私は戦闘向きじゃないから戦うことはないといいけど」


服をはたきながらルカちゃんは立ち上がる。


「戦闘には向いていないかもしれませんが、ルカちゃんの能力はサポート向けなので常に前線じゃないんですか?」

「メアリーの言う通り、ルカも誰かと組んでもらいます。メアリー、あなたは・・・また考えておきましょうか。しかしいいところにいました、どうせなんで貴女の用事を済ませてしまいましょう」

「用事?なんでしょうか」

「ルカはメルエドとフェルディのところへ行ってください。メアリーには会わせたい人がいます」

「私もコンビでがんばれとかそういう話ですか?」

「まぁまぁいいから。何も考えずついてきてください。きっと驚きますよ」


そういうと、イニエス殿下は後ろで手を組み、少し機嫌がよさそうに歩きだす。

会わせたい人物なんて興味はないが、なんだかあまりいい予感がしない。


「あ、それとメルエド。みんなへの集合は解除、カイエンだけ呼んで、この床を直してもらってください」

「了解しました」

「では、行きましょう」


鼻歌まで歌っている。

お兄さんを逃がして大ごとのはずなのに、なんでこんなに上機嫌なんだろうか。

ほんとに、つかみどころのない人だなぁ・・・


~~~~~


屋敷を歩いて、地下へ。

ひんやりとしていて暗い廊下は、いくつかの部屋がずらりと並んでいた。まさに牢獄だ。

ただ、中にいる囚人は椅子に縛られ、20センチほどの針が全身に刺さっており、数本のチューブが繋がれている。植物状態の人間を無理矢理生かしてるように見える。


「悪趣味ですね。お兄さんもこんな風にとらえていたんですか?」

「いいえ、彼は普通の牢屋に優しく投獄していましたよ。ここにいる人たちは、死ぬには惜しいので延命している方々です。そして・・・」


イニエス殿下はある牢屋の前で足を止める。


「この方が、貴方に会わせたかった人物です」

「・・・なるほど」


他の者とは違い、針は刺されておらず、ベッドに寝かされていた。

眠っているようにしか見えないその人物に、私は扉越しに可能な限り、目を凝らした。扉に付いた窓に張り付くように。なぜならそれは、私にとってここにあっていい存在じゃないから。まさに目を疑っているから。


「おやおや、少しは驚いていらっしゃるようですねぇ。いい顔するじゃないですか?メアリー」

「これはどういうことです?こんな」「どうもこうも見たままです。貴女の望みは分かっていますし、言わなくてよろしい。だから私がどうするか、何を考えているかもあえて言いませんが、もう一度言っておきましょうかね」


意地悪く、憎たらしく、心から楽しそうにイニエスは笑う。


「ようこそレギオンへ、歓迎しますよ。イヒヒ、ヒハハハハ!!」


~~~~~


「失礼します。ミルクのみ、です。ごゆっくりどうぞ~」


昼前の一杯、ここのミルクも悪くない。

臭みが少なくて、甘い。なぜか少しドロッとしているので飲むヨーグルトのようでもある。

キースが病床に伏しているため、かれこれ十日間欠かさずこの店に通っているが、飽きさせない。

よくよく思えばこのミルク、それぞれのカフェによって味や風味、とろみ等が違うんだけど、これは加工とか処理とかのレベルではなく違う生き物からとれているんじゃないか・・・?

そんなことを考えていると、コートの右ポケットがじんわりと温かくなった。

連絡用の魔晶石だ。

ポケットから取り出し、魔力を込める。


「どうしたキース」

『なーなーきいてくださいよ!さっきなー、綺麗な黄色の鳥を見たんやけど、調べたらベニフリック鳥やったんですよ!珍しいやつなんやて、まだ近くにおるかもやし、あれやったら見れるかもしれんよ!?』

「・・・そうか、鳥ね。俺今カフェだから見れないかな」

『これはきっとうちの退院を祝ってるに違いない!縁起ええなぁ、テンション上がるわ!』


ここ十日間キースと無駄話ばかりを重ねて、少しどんな奴なのかはつかめてきた。

アホなお調子者、それだけ。

やっと全快して、ようやく退院。


「よかったな。しかし長かった・・・魔法の医療も併せてこんなに時間かかるなんて思ってなかったよ」

『あんのがきんちょ、外身も中身もかなりボコってくれましたからなぁ。それよりうちの退院祝いは?とりあえずこっちきません?』

「はいはい、これ飲み終わったら病院行くから。おとなしく待ってろ」

『待ってる。うち、ずっと君のこと、待ってる』

「そういうヒロイン感似合わんからやめとけ。それにそんな待たせないから」

『ほいほーい、待ってますよ~』


魔晶石は光を失い、能天気な声を最後に、静かになった。


「はやいけど、会計頼む」

「はーい承知しましたー」


300ルンドを支払い、カフェを出る。

魔王城城下町のカフェハルガードのミルクは200ベリル。通貨の違いはあるが、少しここのミルクの方が高い。やっぱりなんかいいミルクを使っているんだろうか・・・どうせなら聞いておけばよかった。


~~~~~


15分ほど歩き病院に着くと、キースはすでに受付付近にいて、患者服をまとった知らない爺さんと談笑していた。


「そんでですよ、彼言うんです。『調子どうだ?』ですって!!ええわけないやん、こっちは包帯まみれやっちゅーに!!あはは!」


・・・盛り上がってらっしゃる。俺のモノマネまでして。


「あぁやっと来たわうちの弟。まってましたよ~子犬のように震えながらね!」

「嘘つくなよめちゃくちゃ楽しそうにしてたじゃねぇか。俺弟じゃないし、あと病院では騒ぐなっての。それと、俺はあんなにしゃくれてないぞ」

「ええやんええやん!やっと自由を得れてうれしいんや!どこいくどこいく?なに食べるー?」

「消化にいいもんにしよう」

「じゃあなんか麺類がいいなぁ、パスタや!」

「広場の北側にある、この街唯一のレストランにいく」

「唯一て・・・え、それしか選択肢ないやん・・・」


~~~~~


円卓の席が合計で8つ。窓際にも一人用のが15、テラス席が3つ。

三角の赤い屋根に煙突、白塗りの壁と、どこからでも客席が見えるような大きな四角の窓は、俺が小さいときに、おもちゃ屋で見た動物の人形と一緒に売っていたままごとの家みたいだ。この世界に来てから毎度そういう建物を見ては胸が躍っていたのが懐かしい、今でもまぁ、いいもんだとは思うが。


「君その顔でパンケーキだけって。男の子はしっかり食べんと!」

「ドラゴンだって飴を舐めるしアルミラージ(ウサギに角が生えた魔物。ぬいぐるみが大変人気)は蛇を麺みたいに吸うんだぞ」

「うわ、今からパスタ食べるっちゅーのに君はほんと・・・」


キースはうげぇと言いながら水をすする。

厨房では火が巻き上がり、小太りのシェフがフライパンをせわしく返しているのが見える。


「ええよな、ああいう風に料理を作ってるのが見える店っていうんは。なんかワクワクするやん?」

「あぁ、ちょっとわかるよ。少しずつ完成系に近づいていくのを見てると、待ってる感覚なくなるよな。もう一種の出し物だよあれは」


水をゴクリ、と飲む。

コップを置くと、キースがすぐに水を足した。


「サンキュ」

「なぁ、こうしてこのままゆったり平和に暮らしててもええと思いません?」

「思わないね。俺帰んないといけないし。お前そういう場所とかないの?」

「拠点っちゅー感じのはあるけど、別に誰かとすんどるわけでもないし、帰らんといかんとは思わんかなぁ」

「そうか。俺は少し休みすぎた・・・早く戻らねぇと」

「すんませんねぇうちに付き合ってもらったばっかりに」

「休暇だと思ってのんびりできたよ、気にすんな」

「またまたそんなこと言うて・・・知ってんねんで、毎日病院の近くまで来てたんやろ。噂になっとんねん君、看護師さんの間で」


そんなの初耳なんですけど恥ずかしい。


「この町なんもねぇから散歩だよ、ストーカーみたいに思われてたのか?」

「立派な剣背負って病院周りやら街の周りうろついてたら警戒もされますよ。レギオンが来てないか見張ってくれてたんやろ?ほんと、そういう気づかいもっとアピールしたほうがいいですよ?いい男がもったいない」

「あいつら殺すのが仕事なんでね、お前みたいな餌がいると虫が寄ってきてやり易いってだけだよ」

「そうですかぁ、そういうことなら、そういうことにしときますわ」


机に肘をついてニヤニヤと笑うキースの前に、すっと皿がおかれた。

赤いソースにスジャトエビののったパスタ。うまそうな酸味のある香りが漂う。

一方で俺の前には2段重ねのパンケーキ、上からはシロップが流れ落ち、バターで簡単に顔が描いている。


「・・・聞きたいことあるんやろ」

「さすがに純粋な気持ちだけで守ってたわけじゃない。十年も生き延びた転生者の話はぜひ聞きたいね」

「そうやなぁ、ほんじゃあれや。君にも聞こえてるんちゃう?姿のない、知らない声が」


プシュケーのことか?

キースは前髪を人差し指で耳にかけると、パスタをフォークでからめとり、口に運ぶ。


「自称神の声なら。まぁ状況が状況で頭もぼーっとしてたし幻聴かもしれないけど」

「いや、多分それですわ。あれは幻聴やない、本物です」

「あれは何なんだ?今は全く聞こえないんだけど。ここに来てからも特に聞こえないままだし」

「君の能力の正体、マジもんの神様ですよ。うわ、エビうまっ」

「シンクロがどうのってのと関係があんのか?」

「そうやねぇ、何を基準にかわからんけど、神様と近づけばいろんなことができるようになる。単純に言うと、仲良くなるって感じかな?」

「仲良くなる?たまにしか声も聞かせてくれない相手とどうやって仲良くなれと?」

「はじめは向こうがこちらを気にいるかどうかやと思うで」


そんな感じのこと言ってた気がする・・・たびたび話しかけてたとか、心配していたとか。


「わざわざ言わへんけど、今だってうちには話しかけてきてるんですよ?うちの神様、『アウラたん』も君に興味津々や」

「そりゃ光栄だな、なんて言ってんの?」

「いい男!連れて行きたい!やって」


神に連れていかれるってそれ・・・死ぬのでは?


「これがまず一つ目の特典、楽しくしゃべれます」

「い、いらん・・・」

「まぁそういわんと、他にもええことありますよぉ?それでは気になる二番目は~~~」


そう言いながらパスタを頬張る。

仕方がないので俺もパンケーキを頬張る。


「ははまはふっひひふふ!」

「・・・ゴク。勘違いじゃなければ、『頭がすっきりする』って言ったか?」

「!?」


キースは水をググっと飲み、パスタを流し込む。


「なんでわかったん!?」

「驚く前にそもそもわからんように言うなよ。頭がすっきりってどういうこと?どういう意味だそれ」

「こう・・・なんて言うんやろ、なんかいろいろどうでもよくなるねん。なんでうち冒険してるんやろーとか、戦ってるんやろーとかそういう風に考えだすんですわ。そしたらすぅーっと視界が開けて、あっこの世界ってキレイやんって思うてね!生きるの楽しいーってなりますよ」


それはそれですこし怖い気もする。急に能天気になるわけじゃないよな・・・


「危ないクスリとか始めた訳じゃ」「ちゃうわい!」「冗談だよ。でも何て言うか、解き放たれるのかな、何て言ったらいいのかわからんけど」


これが、天使の制約がなくなるってことなのか?

魔王を狙う無意識の本能がなくなる、そういうことなんだろうか。

俺が自分に対して能力を使って、天使の制約を壊した時と感覚としては似ている気がする。

使命感というか、やらなければならないことをもうしなくてもいいやってどうでもよくなる感覚。きっとあれなのだろうと思う。


「せやから、うちはのっぺりと楽しく生きていけるわけよ!ええ特典やろ」

「あぁ、よかったよ、俺としても」

「俺としても?」

「いまだに魔王を狙うなら、いつかはお前を」「殺したくないんやったらさ、やめたらええやん。君のそれさ、魔王を狙うやつはみんな殺すーっていうの、うちらの中にあった衝動と全く同じやで?もう一回ちゃんと考えたほうがええんちゃうかな」

「でも俺は」

「でもやない。うちは自分の中の使命感から解き放たれて悠々と生きとる。君もそうするべきなんや。一回全部忘れて、考え直しなさい。ほんとに目指す目標と、たどり着くためのやり方は一つやないやろ」

「いつもちゃんとやれてたんだけどなぁ」

「今回みたいにうちに命助けられて、そんでちょっと言葉交わしただけで躊躇いが生まれるぐらいなら、君それ向いてないですよ。そんなことずっと続けて、心がすり減るのはよくないで?アウラちゃんもうんうん言うてる」

「どうしたらいいんだよ、殺さなきゃ止められない。悟りに至るまで10年も待ってられねぇぞ」

「それを今から見つけたらエエやん。うちみたいな例外もいるってことがわかったんや。改心、とは違うかもしれんけど、殺さなくてもよくなるときが来るかもしれん」


そう言い、パスタをまたたくさん巻き上げ、口いっぱいに頬張る。

美味しそうに、んーーっといいながらにこにこして、口元も汚しながら幸せそうだ。

そして水を一杯丸まるのみ干し、喉に流し込んだ。


「こうやって仲ようやれたほうが良くないですか?うちはええと思う」

「平和主義なんだな」

「そんなんやない。ほんまわかってへんなぁ、君が苦しみながら戦ってるのがよくない言うてんねん。別に気にもせんならこのまま異世界人と戦ってたらええよ。君がそういうやつなら、食べかけのパスタおいておいとましますわ」


口をティッシュでふき、なぜか背筋を伸ばして胸を張る。


「特典3、友達増えるっちゅーこっちゃな!」

「ははっ、それ今考えただろ」


豪快で前向きな考えに思わず笑いがでて来た。考え方ひとつ違うだけで、こうなるのか。


「お、ちゃんと笑えるんやん。毎回ムスッとした顔でデートしてたら相手の女の子立場ないで?ずっとそうしてなさい」


キースはテーブル越しに身をのりだして両手を伸ばし、俺の頬をつまむと、つり上げた。


「ぶふ、おもろ!こんな顔でいつも笑ったらええよ、オモロイから」

「ひゃめろ」


キースの手を掴み頬から離すと、すこし残念そうに口を尖らせ、ドスッと椅子に座った。


「なんやかわいかったんに」

「かわいくねぇよ、タコみたいな顔だったろ」

「タコかわええやん」 

「価値観の不一致だな」

「あ、せや。忘れてたけどもう一個あるで、神様と仲良くなると」

「今のところ1つしか特典ないけど次はなにかな」

「なんか作れるで。神様によって違うらしいけど、道具なり武器なり」

「ほぉそれは興味あるなあ。お前のとこのアウラってのは何を作れんの?」

「それは乙女の秘密。見せたい気持ちもあるけど、こんなとこじゃ出せへんし。せやけどうちのはあんま嬉しくないやつやから、特典とも言いづらいなぁ」


プシュケーからはそんなこと聞いてなかったが、アイツにもできるのかな?

『私への信仰がない、私が貴方とちゃんと繋がれてない、その他もろもろの理由で無理』とか言ってたから、今は少なくとも無理なんだろうが、すこし気になる。


「神の造る武器ってんなら、気になるとこだな」

「これに関しては情報もほとんどないし、アウラたんも他の神様が何を産み出すのかは知らんらしいですわ。喧嘩に強くなるだけでなんもおもろないけど」

「イニエスの力の秘密、かもな。なぁせっかくだし見せてくれよ」

「せやからあかんて。しつこい男はモテへんで。だいたい」


キースがフォークをこちらに向けたと同時に、外からか大きな破壊音が響いき、言葉を遮った。建物を大砲でぶち抜いたような、衝撃と音が窓をきしませ吊るされたランプを揺らしす。


「なんやなんや!?」

「わかんねぇが、食事は終わりだな。いくぞ」


残りの1枚を口に頬張り、コートを羽織って駆ける。

「ちょっとぉ!まだ半分も食べれてへんてぇ!」とすっとんきょうなことが聞こえたが、聞こえないふりをしよう。

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