第26話 城
からからと、赤い瓦屋根を音をたててケンプが歩く。
この地方は滅多に雨が降らないので、瓦は軽くて薄い。
「アラートンさん、さぼらないでください」
ケンプが一人で瓦をはいで、天幕布を広げ、外した瓦を戻すことで固定していく。
「のぼる前、一人でやると聞いたつもりだが」
勾配のゆるい屋根にアラートンは寝そべり、正面の城壁上にある見張り台をながめている。
弩を背負った見張りが一名、真下の跳ね橋を上げ下ろしする担当の見張りがもう一名。
弩とは、あらかじめ梃子や全身を使って弓を引き、後から矢を装着し、引き金を引いて射る、機械仕掛けの弓だ。
射る瞬間に力を使う必要がなく、比較的に小さいので、狭い見張り台や馬上で使いやすい。
他の団員は、五名ほど城のどこかで待機している。
人狼の村を攻めている者達も、そろそろ帰りつく予定の時刻だった。
右に視線を移すと、崩れた城壁がある。
二階建てほどの高さがある煉瓦壁が、南西では中庭と同じくらいの高さにまで崩れてしまっている。
ワァフから説明されたとおり、南西方向は崖になっているので、即座に敵から攻め込まれるというわけではないが、やはり守りとしては心もとない。
しかしながら、ひさしぶりにのんびりした気分を味わうのも悪くない、そうアラートンは思った。
「せっかくのぼったのですから、手伝ってくださいよ」
ケンプのぼやきに、寝転がったまま片手をふって拒否する。
「もう歳が歳だ。十代の若者とは違うのだよ」
「アラートンさんだって二十歳をすぎたばかりと自己紹介された記憶がありますが……」
ケンプはため息をつき、しかし本気で責めている雰囲気でもなく、作業を続けた。
それを横目に見ていたアラートンは、ふいに小さな物音を耳にした。体を起こし、目を細める。
「……様子がおかしい」
正面の見張り台が騒がしい。
弩を背負った見張りが外に向かって大声で何かを叫び、もう一人の見張りが跳ね橋を下ろし始める。
ケンプが手を止める。
「帰ってきたのでしょうか。ならば下りて出迎えないと……」
掌を向けるしぐさでケンプの言葉をさえぎり、アラートンは這うように屋根を移動する。
軒先から下をのぞくと、一人の男が城門から転がり込んでいた。
男は酩酊しているように右へ左へさまよい、地面に点々と赤い斑点を残した末に、音をたてて倒れた。
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